治療

自宅退院に向けてのリハビリ&介護

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 脳卒中発症後の後遺症に対する急性期・回復期リハビリを過ぎると、維持期のリハビリとして自宅でのリハビリが始まります。これからがご本人とあなた達ご家族との協力が大切になってきます。ここでは、皆さまの気持ちの持ち方、具体的な対応方法などをご紹介しましょう。

リハビリの本当の意味は?

 あなたが持つリハビリのイメージはどんなものですか?厳しいリハビリを克服して、復帰・活躍するスポーツ選手などから、「身体的機能の回復」の印象が強いように思われます。ですから、ご本人も含めご家族は「身体的機能の回復」ばかりを介護者や専門職に求める傾向にあります。でも、リハビリは「re(再び)」と「habilis(適した)」と云う2つのラテン語を重ねた言葉で、「社会参加の権利の回復」と云う意味が強いのです。「もう一度、元々上手く参加出来ていた社会に適応する」と云った広い意味合いを持っているので、「身体的機能の回復」だけでなく、精神、日常活動、社会参加などを総合的に満足できる状態に上げていくことがリハビリの意味するところです。

退院に向けて準備

 脳卒中で半身麻痺になった場合、リハビリで改善して来ているとは云え、まだまだ日常生活では不自由を感じることが多くあります。入院中は全く感じなかった不便さを帰宅してみると、大いに感じることがあると思います。外泊許可が出ると云うことは、容態が安定しており、脳卒中再発の恐れが少ないと云うことですから、退院に向けて様々な準備に取り掛かりましょう。

退院前に家屋環境を整える

 脳卒中で半身麻痺になった患者さんにとって、日常生活の全ての行動がリハビリなります。病院内のバリアフリーの床や、壁の全てに手すりを付けるようなことは、自宅ではほとんど不可能です。ダメージを受けた脳にとっては、少し環境が違うだけで「歩くのが怖い」と感じることもあります。出来るだけ退院前に家の環境を生活し易い様に改修したり、福祉用具を準備し、その環境にも慣れておくことが重要です。

・自宅で怖さを感じたポイント(例):
【家全体】畳のヘリ。畳の目。フローリングの木の繋ぎ目。部屋の敷居
【お風呂】脱衣所と風呂場の段差。水に濡れた床。
【寝室】手すりのないベッドからの立ち上がり

・主な場所別改修方法(例):
【玄関】
玄関の敷居はなるべく段差を無くしましょう。バリアフリーやスロープなどの工夫が必要です。ドアは引き戸にすることが出来ます。開き戸の場合は、前後にドアを動かすので車椅子での開閉が難しくなります。
【家の中】
階段以外は家の中の段差を出来るだけ無くしましょう。段差は転倒のもとですので、バリアフリーを目標に、スロープも取り入れましょう。
【床】
床は症状の進行具合によって、「フローリング」と「カーペット」の使い分けが必要です。歩行が可能な場合は、カーペットにすれば、滑り難く歩き易くなります。歩行が困難な場合は車椅子使用を考えて、フローリングにすれば、車椅子による移動が楽になります。家電製品などのコード類は壁に寄せてテープで止めるなど、床に物が散らばらないようにしましょう。
【階段、廊下】
夜間、足元をライトで照らして転倒を防止します。歩き易くするために、約50㎝間隔などで色付きテープを床に貼ることもあります。手すりの高さは患者さんの腰辺りが目安となります。
【寝室】
寝室では布団でなく、寝たり起きたりの動作が行い易いベッドにしましょう。症状が進行し動作が難しい場合は電動ベッドに替えて、自身や介助者の負担を軽くしましょう。ベッドサイドには手すりをつけ、照明にはひもなどを付けて、自身で電気の点滅が出来るよう工夫しましょう。
【浴室・脱衣所】
浴室・脱衣所には、水をはじくタイプの滑り止めマットを敷きましょう。浴槽付近には手すりが必要です。
【トイレ】
トイレは洋式にして、床から約40㎝前後の高さの便器の前にL字型の手すりを付ければ、立ち座りが楽になります。非常時用に呼び出しブザーの設置も求められます。
【照明】
家の中は明るくするように心掛け、夜は特に転倒防止のために、廊下などでは足元ライトをつけましょう。
【冷暖房】
手足が冷え易い場合は、夏場でもあまり低い温度に設定しないようにしましょう。また、冬場の室内温度は一定に保つ方が良いでしょう。

外泊訓練をしましょう

退院後のトラブルを未然に防ぐと云う意味でも、自宅での外泊訓練は必要ですね。脳卒中では体に何らかの障害を抱えての退院がほとんどなので、発病前と後では住み勝手が大きく変わってきます。もし、外泊訓練なしで退院と同時に自宅に帰ると戸惑うことも多く、酷い場合には住めない場合もあります。外泊訓練を行った方の体験談をここに載せておきますので、参考にしてください。

・病院から自宅へ:
普段は病院からタクシーに乗るのですが、今回は駅まで歩いて、タクシー乗り場から乗車。健全な時には全く気にならなかった歩道ですが、今ではほんの小さな起伏や段差にも足をとられて、タクシーに乗るのさえ一苦労。

・自宅に到着:
浴室の手すりやトイレ、階段などは設計で打ち合わせた通り、バリアフリー仕様で手すり取り付け工事も完了。
階段で思わぬトラブルが発生。特に下りの時。病院のリハビリでだいぶ練習したのに、自宅ではなぜか麻痺している右足が斜めになって、階段面に上手く着地できない。
部屋から部屋への移動は何とか一人で出来たものの、病院での練習の感触とはかなり違う。
なぜ、病院の練習と体の動きが同じにならないのか?
このように、外泊訓練を通じて問題点を前もって抽出、対策しておけば、退院後のトラブルを未然に防ぐことが出来るでしょう。
また、大きなショッピングモールは、人混みに慣れさせ、実際に歩く練習にはおススメです。ショッピングモールは、大概バリアフリーになっているし、休憩スペースが一定間隔で設けられています。トイレやエレベーターも充実しているので、車椅子で出かけても安心ですね。

セラピストや看護師との信頼関係が大事

・麻痺の回復には「質」と「時間」がポイント:
麻痺などの障害を持つと「早く良くなりたい」「早く家にかえりたい」とリハビリに焦ってしまうものですが、麻痺の回復にはリハビリの内容(質)と時間が大切です。一般的に「早期離床、早期退院」を目指すことが重要と云われて来ました。「早期離床」は脳卒中発症後、出来るだけ早くから座る・立つ・歩くと云ったリハビリを積極的に行うことです。

【早期離床しないと】
① 手足の筋力が弱る(廃用症候群)
② 手足の関節が硬くなる(関節拘縮)
③ 床ずれが起こる(褥瘡)
④ 深部静脈血栓症・肺炎などの合併症
以上の予防が期待できます。

でも、脳の働きから考えると、「早期離床、早期退院」は麻痺の回復にとって、必ずしも良い影響を及ぼすとは限りません。障害を持った状態からのリハビリの過程は、「障害を負った脳が作り直されて行く(再組織化される)過程でもあります。その時に重要なキーワードになるのが、「機能乖離」と云う言葉です。「機能乖離」とは、脳の抑制現象であり、皮質間抑制と云われ、「脳の損傷を受けた部位と機能的に関連する部位の機能も抑制される」と云うことです。例えば、脳梗塞で運動の中枢の「運動野」が障害されると、「機能的に繋がっている感覚連合野、小脳、脊髄などの機能が抑制されて働き難くなってしまいます。この状態で無理に動く練習を繰り返すと、麻痺側の手足の筋肉が硬くなると云う悪影響が出る可能性があります。この機能乖離を解除するには、一般的に6ヶ月かかると云われて来ましたが、近年の研究では数年経過後でも、機能乖離の状態が続くと云う報告がなされました。ロシアの研究者による機能乖離解除のポイントは次の2つです。

【機能乖離解除のポイント】
① 強い刺激より「弱い刺激」の方が解除され易い。
② シナプスの接続が単純な神経回路の方が解除され易い。
※シナプスとは、神経細胞間あるいは筋繊維、神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造のことです。

日常生活で行うリハビリで、歩く量を増やすことは大事ですが、強い刺激で複雑な運動を繰り返すことになり、機能乖離が長引いて、麻痺側の手足の筋肉が硬くなってしまいます。その分、十分なストレッチ、単純な機能/動作訓練を多用することが大事でしょう。

摂食・嚥下障害と嚥下リハビリ

 脳梗塞発症後は、食べ物を咀嚼して飲み込む力が低下する「摂食・嚥下障害」が多く見られます。嚥下障害を放置したまま口から食事を続けると、誤嚥性肺炎や窒息などのリスクが高まります。しかし、経口摂取を諦めて、点滴や胃ろうなどに頼り過ぎると嚥下リハビリの時期を見誤ることがあります。口やのどの筋肉を使わないでいると口腔感覚が低下して、発話能力や気力が薄れ、認知症やうつ病発症が心配されます。「摂食・嚥下障害」においては、どうやって早く嚥下リハビリを始め、本人の食べる機能と喜びを取り戻すかを、専門家とご家族が一緒になって考えてください。病院やリハビリ施設を退院した後は、誤嚥や窒息の恐れがあるために本人を一人に出来ないというご家族のストレスは、非常に大きいものです。家庭での嚥下食や食事の介助方法などについては、事前に必要な指導を受けておきましょう。

看護の留意点

患者さんを看護する時はセルフケアの日常生活援助をリハビリに繋げていくようにしましょう。ただ単にセルフケアの介助をするだけでなく、介助しながらADLを拡大出来るように心掛けましょう。
※ADLとは食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な日常生活動作を云います。

移動・移乗の介助

車椅子の移乗の介助には車いすを健側に用意します。患者さんは自分の健側を使って移乗し易いし、介助する方の負担も減らせます。また、車椅子に移乗する時は、一度しっかり立位をとらせましょう。両足底を床にしっかりつけて、脚を伸ばして立位を長くとることでリハビリに繋げましょう。

食事の介助

半側空間無視のある片麻痺の患者さんは、無視側に食事を置いても認識出来ないので、無視の無い側に食事をセッティングしましょう。座位を保てるようクッションを使ったり、滑り止め用のマットを敷いて片手で食事できるようにセッティングして、1人で食事出来るよう援助しましょう。

更衣の介助

更衣する時には、麻痺側から着衣して、健側から脱衣します。この時、麻痺側は肩を脱臼し易いので、無理な姿勢を取らせないよう注意してください。また、着脱をただ手伝うだけでなく、麻痺側の曲げ伸ばしなどのリハビリも合わせて行いましょう。病衣の場合は、ボタンでなくマジックテープ式の片手でも自分で着脱できるタイプのものを使用して、ADLを広げるように努めましょう。

いかがでした、
自宅でのリハビリ、介護はお互いの協力で負担を軽減しながら行うのがポイントですね。
是非、参考にしてみてください。

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再生医療(脳卒中・脊髄損傷の後遺症改善)福永記念診療所