基礎知識

脳血栓に注意!

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 私たちの体の隅々まで、生きていくための必要な栄養素や酸素を血流にのせて送り届けてくれる血管のおかげで、私たちの命は保つことが出来ています。この大切な役割を担う血管に血液が詰まってしまう病気が「血栓症」と呼ばれるものです。身近では「エコノミー症候群」などで知られるように、飛行機内や災害時の避難所などのように、長時間身体を動かせない環境下に置かれたり、血液がドロドロの状態の人に発症しやすく、血流が遮断されて、場合によっては死に至ることもあります。血栓症でも、動脈と静脈では血栓の種類が異なり、引き起こされる病気が違ってくるので、それらを紹介して行きましょう。

血栓症の症状、種類、治療法とは

動脈で起こる血栓症

 動脈では、血流が早いので血小板が活性化されやすいことが起因して、「血小板血栓」や「白色血栓」と云われる、血小板主体の血栓が出来ます。

原因

  • 高血圧や、脂質異常・糖尿病などによる動脈硬化(血流・血液成分異常)
  • 不整脈や弁膜症(血流異常)
  • 血液粘度の亢進(血液成分異常)
  • 血管炎(血管壁異常)

 などが大きく関係していると考えられ、これらを原因にして以下の病気が引き起こされます。

① アテローム血栓性脳梗塞・心筋梗塞
 血栓が脳にできれば脳梗塞、心臓にできれば心筋梗塞になるわけですが、脳梗塞や心筋梗塞には※アテローム性と言われるものがあり、「アテローム血栓性梗塞」の場合は、コレステロールが原因とされます。欧米では多くが見られていましたが、最近では日本でも増加傾向にあります。コレステロールが動脈内で固まって、血管自体が狭くなり、そこに血栓ができて血管が詰まったり、できた血栓が剥がれて流れ、その先の血管を詰まらせることもあるのです。また、元々、血管が細くなってしまっているので、ちょっとした脱水などで血流が不足すると、その先の血管が簡単に詰まってしまうことになります。
※アテローム:粉瘤(ふんりゅう)と呼ばれ、垢や皮脂などの老廃物が皮膚の下や血管壁に溜まる良性腫瘍のこと。

② 閉塞性動脈硬化症
 手足の動脈に血栓が詰まったり、動脈硬化によって血管が狭くなると、閉塞性動脈硬化症を起こします。手足の動脈が血栓で詰まると、栄養や酸素が行き届かないだけでなく、しびれや冷感、「間歇性跛行」と云って、一定の距離を歩くとふくらはぎなどが締め付けられるような痛みの症状が見られたり、不眠症など、酷くなると潰瘍や壊疽を引き起こします。閉塞性動脈硬化症の恐ろしいのは、心筋梗塞などの心血管系の合併症のリスクが高まることです。 

静脈で起こる血栓症

 静脈に血栓ができる場合は、血管内の血流が遅いので、以下のことが原因とされます。

原因

  • 凝固を防ぐ因子の低下
  • 血流の滞り
  • 組織因子が作られて、血管内に放出される
  • 凝固因子が活性化する

 などが原因となって、凝固活性化のフィブリンを主体とする「フィブリン血栓」が発生したり、赤血球を主体とする「赤色血栓」ができて、以下の病気を引き起こします。

① 深部静脈血栓症・肺梗塞・肺血栓塞栓症
 腕や足の深部の静脈に血栓ができるのが深部静脈血栓症です。症状のないのが一般的ですが、腕や足の静脈に血栓ができると、むくみや腫れ、変色、かゆみ、押さえると痛んだり、熱を帯びる感じがすると云った症状が見られることもあります。皆さんもよく知っているエコノミークラス症候群は、この深部静脈血栓症が血流にのって移動することで肺動脈に血栓がつまると、肺梗塞・肺血栓塞栓症になります。突然胸が痛くなったり、呼吸が苦しくなる症状を起こします。完全に血流が途絶えると、肺組織は壊死し、ショック状態から酷い場合は死に至ることもあります。
生活習慣や食生活などが影響して、血栓ができやすい血液成分になっている状態で、長時間同じ姿勢をしていると、血栓ができやすくなって、これらの症状を引き起こす可能性が高まります。

② 心原性脳塞栓症
 心原性による脳梗塞は「心原性塞栓症」と呼ばれて、心房細動や心筋症、リウマチ性心臓弁膜症など、心臓の機能が上手く働かないことで血流が乱れ、血栓ができます。この場合も、血流がうっ滞することで「フィブリン血栓」となり、病巣が大きく死に至る危険性が高まります。厳密に言えば動脈血(酸素化された血液)ではありますが、流れが遅いところに出来る血栓なので、静脈系血栓として今回は分類しています。

血栓症の治療法

心血管系に血栓ができた場合

 心血管系に血栓ができた場合は、心臓の機能回復が最優先になります。血栓による心筋梗塞の時は、アスピリン、モルヒネ、酸素、硝酸薬を投与して、発症後1.2時間以内なら、「PCI」治療を行います。「PCI」は心臓カテーテル治療で、血管内にカテーテルを挿入して、血栓を破壊・吸引しながら、血管のつまりを取り除く治療方法です。他には「血栓溶解療法」と云って、薬で血栓を溶かす治療法で、血栓ができて間もない場合は非常に効果的な方法です。「PCI」と「血栓溶解療法」の2つを上手く使い分けながら、血流が正常に戻るように処置します。治療後は再度血流が滞らないように、アスピリン投与を続けます。

脳に血栓ができた場合

 脳梗塞の場合は、急性期なら心血管系に血栓ができた時と同じように、迅速な処置が必要です。発症後4.5時間以内なら、アルテプラーゼと云う血栓溶解薬を静脈に注射して、血栓を溶かします。発症後4~8時間以内の条件では、足の付け根からカテーテルを入れて、血栓がある場所まで行き、投薬したり、血栓を除去・回収する治療を行います。それ以後の治療は症状・状態によって異なり、手術も含めてベストの治療を行います。

肺動脈に血栓ができた場合

 肺梗塞や肺血栓塞栓症の場合は、ヘパリンなどの抗凝固薬を点滴投与しますが、重症で早急な対応が必要な場合は、「血栓溶解療法」で治療します。尚、場合によっては手術やカテーテル治療を行う可能性もあります。肺梗塞や肺血栓塞栓症は再発するケースが多いので、治療後少なくても半年、場合によっては生涯ワルファリン(抗凝固薬)を服用することになります。予防として、下大静脈フィルターと呼ばれる装置を留置して、肺動脈に血栓が流れ込むのを防ぐ方法もあります。

腕や足の静脈に血栓ができた場合

 腕や足の静脈に血栓ができた(深部静脈血栓症)場合、それらが剥がれ落ちて、肺などに流れ込んで、肺梗塞が起きるのを防ぐのが治療目的になります。一般的には低分子ヘパリンやフォンダパリヌクスを皮下注射し、同時にワルファリンも服用します。ワルファリンの効果が出てきたら、注射による投薬を止めて、ワルファリンを3~6ヶ月服用します。肺梗塞の場合と同様に、下大静脈フィルターを留置して、肺に血栓が流れ込むのを防ぐ予防法を取ることもあります。

脳血栓を溶かす

脳血栓を溶かす治療とは

 脳梗塞の発作を起こしても、t-PA(ティッシュー・プラスミノーゲン・アクティベータ)と云う薬を4時間半以内に投与すれば血栓が効率よく溶解して、後遺症もほとんど残らないと云う画期的なものです。他のタイプの血栓溶解薬では、大出血が原因で命が助からない場合もありますが、t-PAでは、このような大出血を起こす危険性が少なくなっています。

血栓溶解療法(t-PA)とは

 脳の血管が血栓などで詰まると、血流が途絶えた脳細胞は時間の経過と共にどんどん死んでゆくので、この途絶えた血流を少しでも早く再開させて、脳細胞を助けてあげる治療が血栓溶解療法です。

血栓溶解療法の順序

  1. 患者さんの点滴ルートを確保する。
  2. 最初の1分は、薬の10%を注射する。
  3. 残りの薬を1時間かけて注射する。

 これによって、血流に乗った血栓溶解薬が脳にたどり着いて、脳の血管に詰まった血栓を溶かしてゆくのです。脳梗塞の3つのタイプ(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓)のどれにもこの血栓溶解療法を行うことが出来、薬を注射するだけの簡単な治療法ですが、脳梗塞を起こした患者さん全てがこの治療を受けられるわけではありません。

血栓溶解療法を受けられる条件

  1. 脳梗塞を起こしてから4時間半以内であること。
  2. 出血するような持病を持っていないこと。
  3. 血栓溶解治療の講習を受けた医者がいる病院であること。

 脳梗塞は発症した瞬間から、正常な脳細胞がどんどん壊れて行くので、治療はできるだけ早く開始しなければならず、時間が経過して脳梗塞が完成してからでは、いくら血流が再開できても脳は元に戻らないのです。また、時間が経過してからの血管の再開通では、弱った脳に突然血液が流れだして、思わぬ大出血を招く可能性が高まります。簡単に思える治療だけに、そのリスクを理解していないと非常に危険です。手足の麻痺や言語障害を感じて脳梗塞を疑った場合は、4時間半以内に脳神経外科や神経内科の病院に救急搬送してもらう方が良いでしょう。

血栓溶解療法が出来る方、出来ない方

 血栓溶解療法は、脳梗塞を起こして4時間半以内ならどのタイプの脳梗塞にも治療が行え、血栓を直接溶かす作用があるので高い治療効果が期待出来ます。でもその一方で、血栓を溶かす作用が強いので、「出血」の副作用が心配され、症状が悪化するほどの脳出血を起こす確率が約4%あります。この出血の副作用を回避するために、血栓溶解療法を受けることが出来ない条件があります。

血栓溶解療法を受けることが出来ない条件

  • 以前、脳出血をしたことがある。
  • 3ヶ月以内に脳梗塞を起こした。
  • 3ヶ月以内に脳や脊髄のケガをしたり手術をうけた。
  • 3週間以内に消化管出血や尿路出血を起こした。
  • 2週間以内に大ケガをしたり、手術を受けた。
  • 血液検査で、血液を固める「血小板」の数が少なかった。
  • 血液をサラサラにする薬が効きすぎている。
  • 一定の確率で出血の副作用が見られるので、75歳以上の方には、「慎重投与」が求められます。

「t-PA」をケアする運動

 「t-PA」は実は、体内でも作られているのです。血管内皮で作られて、線溶系※を開始して血栓を溶解します。この「t-PA」を働き易くするセルフケアの運動があります。
※線溶系:出血を止めるために、生体が血液を凝固させる凝固系と密接に関係して、固まった血栓を溶かし分解させる一連の分子の作用系です。=線維素溶解系

血栓を溶かすウォーキング

 運動効果を調べる調査で、週1回1時間ほどの有酸素運動トレーニングを行って、他の日は歩くなどの運動を3ヶ月続けました。その結果、コレステロールや中性脂肪が低下し、血栓溶解時間が9時間から7.4時間に短縮され、血栓が溶けるのを阻害するPAI-1の値が19.3 ng/mlから16.4 ng/mlに減少しました。PAI-1の減少によって、t-PAが働き易くなり、血栓の溶ける時間が速くなって、病的血栓が作られ難くなります。その上、運動によって血液をドロドロにするコレステロールや中性脂肪が減ることで、血流がよくなり、動脈硬化が進みかけた血管の進行を抑えることができます。このように運動することで、血液、血管、血流の血栓を作る三要因に働きかけて、血管の内皮細胞の状態を改善して、血栓が出来難い環境を作ります。1日30分程度のウォーキングを週4回以上行う「血栓溶かしウォーキング」の有酸素運動が有効とされます。

血栓溶解療法の実際

 血栓溶解療法で劇的に回復した実例を挙げてみました。
・脳梗塞発症後1分で病院の検査を受けることが出来た。(病院の目の前で倒れると云う、不幸中の幸いでした。)
・右麻痺と失語症の症状があったので、CTとMRIを撮ったところ、血管が詰まっているのを発見した。
・t-PAを打ったら、血栓が溶けて、1週間位で全く後遺症もなく退院できた。

 しかし残念ながら、脳梗塞発症事例の1割弱程度しか、t-PAは利用されていません。その理由の多くは、病院に行くのが遅かったということです。脳梗塞発症から病院に行くまでにかかる所要時間は平均10時間だと云われています。「ちょっと変だなあ、明日病院に行ってみようかな」では、もう遅いのです。「呂律が回らない」「めまいがする」「手足に脱力感がある」など、何かいつもと違うおかしな症状を感じたら、例え軽い症状でも早めに病院を受診する方がよいでしょう。

いかがでしたか、
 日本列島がヒートアップする中、熱中症以上に怖いのが、血管内にできる血栓ですね。脳、心臓、肺、手足と、どこで発症しようと重篤な状態に陥る可能性が高いので、注意が必要です。是非、参考にしてください。

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