治療

脳卒中治療のガイドラインとは?

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脳卒中治療のガイドライン

 脳卒中治療のガイドライン2015[追補2017]は日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン [追補2017]委員会によって、編集されたものです。
ここでは、項目のみを表記し、内容に則した記事を別途、表しています。
 Ⅰ 脳卒中一般
    1 管理
    3 発症予防
 Ⅱ 脳梗塞・TIA
    1 脳梗塞急性期
    2 TIAの急性期治療と再発予防
    3 脳梗塞慢性期
 Ⅲ 脳出血
    1 脳出血の予防
    2 高血圧性脳出血の急性期治療
    5 高血圧性脳出血の手術適応
    6 高血圧以外の原因による脳出血の治療
 Ⅳ くも膜下出血
    6 脳動脈瘤-保存的治療法
 Ⅴ 無症候性脳血管障害
    3 無症候性頚部・脳内血管狭窄・閉塞
 Ⅵ リハビリテーション
    1 脳卒中リハビリテーションの進め方

「t-PA 治療」と「脳血管内治療」

 主幹動脈(脳を養う重要な血管)の閉塞による脳梗塞の治療法として第一に選択されるのが、t-PAと云う血栓を強力に溶かす薬を静脈から点滴投与する方法ですが、発症4.5時間以内に治療を開始しなければならないと云う制約があります。
 そこで、t-PA適応外の患者さんに対する次の手段が、急性期脳梗塞に対する脳血管内治療となります。

脳血管内治療(塞栓術)

 脳梗塞の血管内治療は、発症後8時間以内の患者さんが対象になります。カテーテルと云う細いビニールのような管を足の血管から挿入して、頭の中の脳血管まで進めて、血管を溶解したり、回収したりして、閉塞した脳血管を再開通させます。

―――具体的な方法―――

  1. 局所血栓溶解療法:カテーテルを閉塞した血管に導入し、そこから血栓溶解剤(ウロキナーゼ)を投与する。 
  2. 血栓破砕による脳血管再開通療法:バルーン(風船)を閉塞した血管に留置し、バルーンで血栓を破壊する。
  3. 血栓回収療法:MERCI(メルシー)リトリーバーと云う先端がらせん状になった柔らかいワイヤーで、脳の血管を詰めている血栓をからめ取って回収します。
  4. 血栓回収療法:Penumbra(ペナンブラ)システムは、血栓を吸引する器具で、まるで掃除機のように血栓を吸引して、回収します。柔らかい血栓も回収が可能です。

外科的手術

・開頭血腫除去術

 頭蓋骨の一部分を切り開いて、専用の顕微鏡で見ながら血腫(血液の固まり)を取り除き、出血している血管部分の止血をする「開頭手術」です。「被殻出血」,「小脳出血」,「皮質下出血」の場合に行われ、手術時間は血腫の場所や大きさにもよりますが、約2~3時間ぐらいです。
 頭蓋骨を切り開くため、患者さんの負担が大きい手術で、体力の低下している場合や高齢者には行うことが出来ない場合もありますが、医師が直接見て血腫を除去し止血するので、確実性が高いと云うメリットが大きいです。
・・・そういえば、ドラマ「仁」で江戸時代にタイムスリップした現代の医師が、最初にノミと木づちで手術したのが、この方法でしたね。・・・

・CT定位的血腫吸引術

 頭を手術用のフレームで固定して、頭蓋骨に穴を開けてそこから細い管状の器具を入れて血腫を吸い出す手術です。手術はCTを使って脳の中の血腫の中心部の位置を正確に確認しながら行います。この手術のメリットは、頭蓋骨を切り開かずに、局所麻酔(部分麻酔)で行うので、患者さんへの負担が少なく、脳幹出血の方や高齢者にも行えることです。また、手術による傷の回復も早く、出来るだけ早くからリハビリを行えるので、生活機能回復の可能性が高まります。
 ただ、出血部分の血管の止血が絶対条件で、手術中に出血すると止血出来ないと云うデメリットがあります。
・シャント手術
 クモ膜下出血や脳出血が原因で、脳室に溜まってしまった脳脊髄液を体内の他の場所へ逃がしてやる手術で、流れる道を新たに作るバイパスのようなものです。

―――バイパス経路―――

1)脳室-腹腔シャント:脳室からお腹の中へ脳脊髄液を流す。
2)腰椎-腹腔シャント:腰の背骨の中にある脳脊髄液をお腹の中へ流す。
・脳動脈瘤クリッピング術
 脳動脈瘤は、出来易い場所が決まっていますが、例えば脳底動脈先端部の動脈瘤は頭の奥深い所にでき、意識の中枢を栄養とする重要な穿通枝という非常に細い動脈が近くにあるので、手術のリスクが高いのです。このような場合は、比較的安全性の高い血管内治療で対処します。一方、枝のように血管が出ている動脈瘤の場合、血管内にコイルを詰めると枝になった血管も閉塞してしまうので、血管内治療は適しておりません。脳の表面に近い位置に出来た動脈瘤、特に中大脳動脈瘤などの場合は開頭してクリッピング術を行う方が適していると云えます。手術は、開頭して脳動脈の根元「ネック」と云う部分をクリップで挟みます。動脈瘤の出来方により、挟む際に周囲の細い血管を一緒に挟んでも脳梗塞を起こしてしまうものや、クリップを複数使うものなど、さまざまなのでクリップの選択や挟み方に技術と経験が必要です。また、クリップは動脈瘤を挟んだまま永久的に脳内に残り、運動していても外れることはありません。
・脳動脈瘤コイル塞栓術
 「切らない脳動脈瘤治療」として注目を浴びた患者さんに優しい治療法です。局所麻酔で、体にメスを入れずに動脈瘤が治ります。米国では全体の50%、欧州では70%の患者さんにこの治療がなされていますが、日本ではまだ30%ほどしか普及していません。コイル塞栓術においては動脈瘤のネック(入口)の広さが深く関係し、ネックが狭い場合は、動脈瘤の中にプラチナコイルを詰めるだけでうまく治療できます。広い場合は動脈瘤からコイルがはみ出してしまうことがあったのですが、最近ではバルーンカテーテルやステントとの併用により、ネックの広い動脈瘤でも治療が可能になりました。ただステント併用の場合は、例えば小さな動脈瘤や血管が細い場合には、適応出来ないことや、留置したステントに血栓が形成されないよう長期間、抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を内服する必要があります。
・CEA、CAS、EC-ICバイパス術
1-頸動脈内膜剥離術(CEA)
 頸動脈に70%以上の狭窄がある場合、抗血小板療法に加えてCEAという頸動脈内膜を剥離する手術の適応があります。 但し、一度脳卒中に罹った方は50%以上の狭窄でも手術の適応があります。血管がどれくらい狭まっているかを頸動脈エコーや造影検査で調べ、全身麻酔の下、頸部を切開し、頸動脈を露出させて手術を行います。
2-頸動脈ステント留置術(CAS)
 頸動脈に狭窄があるが、CEA手術では危険性が高い患者さんには、ステントを血管内に置くと云う手術を行うこともあります。ステントとは細いコイルのような器具を動脈内に挿入し、動脈を広げて血流を確保するものです。メスで切って行うような手術ではなく、足の付け根の太い動脈から細いカテーテルを通して、頸動脈まで挿入し、狭窄部分でステントを広げ、留置する方法で、全身麻酔の必要も無い手術です。
3-EC-ICバイパス術
 脳梗塞になるかどうかギリギリの血流状態(ペナンブラ)の患者さんには、脳梗塞を予防するため脳血流を増やす頭蓋外—頭蓋内バイパス(extracranial[EC]—intracranial[IC]bypass)が有効です。但し、術後合併症は極めて高頻度でありガイドラインでは以下の適応を満たした症例に限り、手術を考慮しても良い(グレードB)とされています。

  1.  3 カ月以内に生じた73歳以下、日常生活動作能力が自立している例
  2.  画像上、支配領域に広範な脳梗塞巣を認めず、内頸動脈あるいは中大脳動脈本幹の閉塞あるいは高度狭窄例。
  3.  脳卒中発作から 3 週間以上経過した後、中大脳動脈領域の血流量が健側の80%未満かつ脳循環予備力が障害された例。

再発予防について(危険因子)

 脳卒中は再発し易い病気で、特に脳梗塞は発症した人の3人に1人は5年以内に発症すると云うデータさえあります。また、再発する場所は、一度起こした部位とは別の部位であることがほとんどです。脳卒中で一度破壊された脳神経細胞を生き返らせることは、現代医学をもってしても未だ不可能ですので、再発を繰り返す度に新たな後遺症と闘わなければなりません。ご自身だけでなく、サポートされるご家族の事を考えると、どうしてもここは再発防止に努めなければならないはずです。

危険因子を知ろう!

 脳卒中の再発予防には、発症率を高める危険因子を知って、1つでも多くの危険因子を減らす努力をしましょう。方法は2つですが、いくら「薬物療法」できっちり処方された薬を飲んでも、暴飲暴食や運動不足と云った生活習慣を改めなければ、再発のリスクを少なくすることはできないので、2番目の「非薬物療法」が重要になってきます。

 

 

・肥満:脳卒中に限らず、肥満は数多くの生活習慣病の元凶です。脳出血、脳梗塞、糖尿病、高血圧、脂質異常症を引き起こす最大の原因になっています。まず、あなたの肥満度を、BMIと体脂肪率を参考に、しっかり把握することが大切です。
・お酒:適量を守って飲む分には、むしろ健康によく、効果―血液の循環が良くなるリラックス効果、ストレス解消、食欲増進などですが、一方飲みすぎると、肥満、動脈硬化、高血圧、糖尿病と云う脳卒中の危険因子を後押しする原因となります。また、飲酒の量が増えれば増える程、脳出血を起こす可能性が高くなるので、注意しましょう。

・高血圧:脳卒中に関係する最大のリスクが高血圧です。

 

目標値の設定―最高血圧140㎜Hg以下
       最低血圧90㎜Hg以下
脳出血の場合は直ちの降圧が必要ですが、脳梗塞の場合は発症後に急激に降圧すると脳梗塞を増悪させてしまう可能性があります。そのため、急性期(2週間以内)では最高血圧220mmHg、最低血圧120mmHgを超える場合、降圧前値の85~90%を目安として降圧する様にします。血栓溶解療法を行った患者では、治療後24時間以内は最高血圧180/最低血圧105mmHg未満にコントロールすることになります。以降は2~3か月かけて緩徐に降圧していきます。

高血圧の薬物療法
カルシウム拮抗薬、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、ARB(アンジオテンシンⅡ受胎拮抗薬)など、効き目が緩やかな降圧薬がよく用いられます。
・脂質異常の改善:脂質異常症は動脈硬化を促進させる大きな要素で、体内の
コレステロールや中性脂肪が多くなり、脳卒中、特に脳梗塞のリスクが

 

高まり
ます。

―――目標値を設定した食事療法(脳梗塞の既往があるなどの場合)―――

  1. non HDL-C (総コレステロール-HDLコレステロール)150mg/dl未満
  2. 中性脂肪 150mg/dl未満
  3. LDLコレステロール120mg/dl未満
  4. HDLコレステロール 40mg/dl以上

・糖尿病:血糖値が高い状態が続くと、動脈硬化を促進し、脳梗塞再発の原因となります。まずは、食生活や運動習慣の改善に努め、生活習慣を見直しても、血糖値が下がらな

 

い場合は、経口糖尿病薬やインスリン注射といった薬物療法を行います。
・たばこ:喫煙は人災!「タバコは百害あって一利なし」の有害物です。喫煙者は2~3.5倍も脳卒中の発症率が高まりますよ。今や禁煙は常識でしょ。

やっぱりお薬も大事!

 

 脳梗塞の再発予防には、血栓が作られるのを防ぐために薬物療法も大切です。2つの治療法とも、既に生成されてしまった血栓を溶かすことは出来ませんが、病状の悪化や再発は防止できます。
1-抗血小板療法
 アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の再発予防に抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、チクロピジン、シロスタゾールなど)を内服します。
2-抗凝固療法
 心原性脳塞栓症の患者さんには、抗凝固薬のダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ワルファリンカリウム、等が投与されます。血液を固まり難くすることで、脳梗塞の原因である血栓や動脈の狭窄を防ぎます。

脳卒中後のリハビリは必須!

 急性期病院は「病気を治療するための病院」です。急性期を脱して病気自体は落ち着いても、後遺症などの影響で退院が難しく、リハビリがまだまだ必要な患者さんはいらっしゃいます。このような患者さんは回復期リハビリテーション病院や老人保健施設などへ移って、リハビリを続け、自宅への退院を目指します。もし、急性期病院から直接自宅に戻れたとしても同じですが、自宅での生活に何らかの不自由が残ることは少なくありません。廃用症候群に陥る危険性もあります。ですから、自宅に帰ってからのリハビリが後の生活を決定すると云ってもよいのです。自宅に戻っても、多くの患者さんが継続して練習を行っています。適切な練習メニューを生活に取り入れて、退院後の機能改善・維持に努めましょう。

Q1-症状が出ない脳卒中とは?

 CTやMRIなどの検査を受けた時に、脳卒中に罹ったことのない方が偶然に発見された脳梗塞を無症候性脳梗塞と云います。そのほとんど(80%)は高血圧が長く続いたために、脳の中を走る穿通枝という細い動脈が詰まって起こるラクナ梗塞と呼ばれるタイプの脳梗塞です。40歳以下では認められず、高齢になるほど増加すると報告されています。
 再発の危険因子を抱えているわけですから、日常の血圧管理が非常に重要です。

Q2-脳動脈瘤は破裂するとどうなる?

 脳の血管は脳を取り囲むようにくっついています。頭蓋骨の中にある脳がくも膜下腔という場所で脳脊髄液に浸かっているので、脳動脈瘤が破裂すれば、脳脊髄液の中に出血して、くも膜下出血が起こります。突然の激しい頭痛に襲われ、今までに経験したことのない痛み、バットで殴られたような痛みなどと表現されます。吐き気や嘔吐を伴い、意識が悪くなり、手足の麻痺や言語・視覚の障害、けいれんなども起こり、突然死の原因にもなります。
 クモ膜下出血では30%の人は治療により後遺症なく社会復帰しますが,約50%は初回の出血で死亡するか,病院にきても治療対象とならず、残り20%では後遺障害を残します。

Q3-脳卒中後、うつ病になり易いって本当?

 脳卒中後では報告者によりかなり幅がありますが、15~72%の患者にうつが出現するとされております。リハビリテーション病院の患者を対象にすると、重度うつ病が23%、軽度うつ病が35%で、平均46%がうつになっているという報告がある程です。特にリハビリ時期にやる気を失ってしまうと、とり返しのつかないことになり得ます。

なぜ、うつ病になり易いのか!

 脳卒中では、脳の血管が障害されるので、この時、脳の中の気分や感情に関わる部分が影響を受けて、抑うつ状態が現れることがあります。それに脳卒中による生活環境上のストレスが加わって、うつ病を発症すると云われています。

―――脳卒中後の生活上のストレス要因―――

  1. 体の機能障害によって、これまで生活の中で当たり前に出来ていたことが、出来なくなった苛立ち
  2. 療養環境や介護者との関係などの生活上の要因
  3. 職場復帰の問題などの社会的要因

 上記の要因が複雑に絡み合って、脳卒中後のうつ病が発症します。
このうつ病の特徴は、抑うつ気分よりは意欲の低下や、ほとんど行動したがらない様子などが目立ち、一般的なうつ病特有の1日の内で気分変動(朝悪く、夕方に回復)は、ほとんどみられません。脳卒中後のうつ病は、一般的に見られる症状と見て、気安く考え放っておくと、リハビリして社会復帰を果たそうと云うやる気を奪ってしまいます。このことが病気の回復を遅らせ、患者さんのQOL (生活の質)を低下させます。

 脳卒中発症後、やる気が出ない状態が続いているようであれば、なるべく早く専門医師に相談しましょう。

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