脊髄損傷

脊髄損傷の原因と機能障害

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 人間の体は、手足を動かすといった運動機能だけではなく、生きていく上で必要な呼吸や反射・体温調整・排泄などの指令を脳・脊髄の中枢神経で担っています。脊髄を損傷するということは、当然これらの機能に障害が出るということです。
脊髄損傷はどのような原因で起こり、どのような転帰をたどるのでしょうか。

頻度・年齢、発症原因

脊髄は、手足を動かしたり痛みなどの感覚を司るための、最初の指令を行う場所です。
動かすための指令も、感覚を受け取るための知覚も、中枢は脊髄にあるのです。筋肉や知覚をゴールとすると、スタートと言い換えることができるでしょう。

これだけ重要な機能を担っている脊髄ですから、ちょっとやそっとの外傷では傷つかないように構造上、骨やいくつもの膜で包まれて守られています。しかし、これらの防御機能だけでは防げずに、脊髄がダメージを受けてしまうことがあります。
どのようなときに脊髄は損傷を受けるのでしょうか。

脊髄損傷

主な発症原因の順位としては、下記のようになります。

1位:交通事故
2位:高所転落
3位:転倒
4位:打撲・下敷き
5位:スポーツ

脊髄損傷の発症原因は交通事故と転落事故によるものが圧倒的に多く、国内の脊髄損傷原因の約3/4を占め、人口100万人につき約40人と報告されています。

東京オリンピックが決定してから、パラアスリートをテレビ等で目にする機会が増えましたが、彼(彼女)らの中にも、交通事故による脊髄損傷が原因で障害を抱えてしまった選手がいます。

2位の高所転落は、脚立やはしご・ゴンドラでの作業などの高所作業での労務災害によるものが多く、損傷の部位と程度によっては、高所といっても2mの高さくらいでも死に至ることもあります。

更に下位をみてみると、4位に打撲・下敷き、5位にはスポーツが続くように、脊髄損傷は比較的活動的な若い世代に多い疾患であり、強い力が加わった場合に起こるものというイメージを持っていた方もいるでしょう。

しかし、3位の転倒に注目してください。転倒=転んだ程度で脊髄損傷?と少し首をかしげてしまうかもしれませんね。
これは、足腰の筋力が低下して脊髄を守る骨も骨粗鬆症によってもろくなっている高齢者に起こるケースです。
若い人のように激しい圧力がかからなくても、高齢者にとっては転んだときの衝撃が脊髄損傷を起こすレベルだったということですね。

とはいっても、やはり脊髄損傷の多くは外からの強い力が加わったことにあることは間違いありません。

生命予後

脊髄損傷は病名としては一つですが、実は損傷した部位によって症状も程度も全く別物となる病気です。
脊髄は上から頸髄・胸髄・腰髄・仙髄に分かれており、障害した部位が上であればあるほど重症度は高く、特に頸髄は非常に危険です。

頸髄は呼吸の司令塔であり、損傷を受けると受傷直後に死亡に至るケースもあります。一命はとりとめたとしても、人工呼吸器が離脱できない場合や、自分の唾液で誤嚥性肺炎を起こして命を落とすこともあります。
また、頸髄の下の胸髄の損傷も血圧の低下や著しい徐脈などの循環状態の悪化を招き、神経原性ショックを起こすことがあります。

本当に頸髄の損傷が認められた場合には、損傷の程度によってカラーと呼ばれるものを首に巻いて、頭の重みを首だけで支えずに済むように保護し、頸髄を固定することもあります。
更に損傷がひどい場合には、頭に金属のピンを埋め込んで胸に着用した専用のベストに固定し、物理的に完全に頸部を固定することもあります。
そのくらい、頸髄の損傷は生命予後に直結するのです。

一口に脊髄損傷といっても下位の脊髄損傷で足に少ししびれが残るかなという程度から、呼吸障害による呼吸不全で亡くなるレベルまでありますが、直接的に生命予後に関わるものは頸髄と胸髄の損傷です。
それ以外の部位の損傷では、合併症によって重篤な状態に陥ることもありますが、詳しい機能障害については次の項に譲ることにしましょう。

神経学的症状と機能障害

脊髄損傷は日常生活に少し支障をきたす程度から死に至るまで、神経学的症状の差が非常に大きな疾患です。
そこで、この重症度を評価するための分類が世界中でいくつも発表されています。

例)

フランケル分類

  • FIM(機能自立度評価尺度)
  • 頸髄損傷高位評価表
  • 着ASIA運動スコア

改良フランケル分類

  • ASIA機能評価尺度
  • MMT(徒手筋力テスト)
  • ASIAスコアニングシステム

これらは専門の医師やリハビリに携わる医療従事者が使うものであり、一般的には
1.麻痺がどの高さで起こっているか
2.麻痺の程度
の2つに分けて考えていただけるとよいでしょう。

1.麻痺がどの高さで起こっているか

脊髄は、これまでにもお伝えしたとおり頸髄・胸髄・腰髄・仙髄があり、それぞれ担っている機能は異なります。

<脊髄損傷に随伴する障害>

  • 頸髄:呼吸障害
  • 胸髄(上位):循環器障害
  • 胸髄(中位)・腰髄:消化器障害
  • 仙髄:排尿障害

脊髄を1本の糸のようにイメージしてください。
この糸がほつれたりプツッと切れてしまった場合は、そこから下の機能を失ってしまいます。

頸髄を損傷した場合にはその下の機能の全てに障害が出るけれど、受傷部位が仙髄ならそこから上の機能が障害されることはないので、呼吸や循環に直接的な障害は現れません。

上半身は筋骨隆々のパラアスリートも、足をみるととても細くてアンバランスに感じたことはありませんか?
この症状の現れ方が、脊髄損傷の最大の特徴です。

脊髄損傷部位による機能障害のイメージ

2.麻痺の程度

脊髄という糸が切れて全く機能不全に陥った状態を、「完全麻痺」と言います。
一方で、糸が傷ついてはいるけれど完全に切れてはいない状態、“ほつれ”程度のこともあります。このような場合は、一部ができて一部ができない状態になるため、「不全麻痺」といいます。

例えば、同じ頸髄損傷でも、損傷の程度によっては以下のように、現れる機能障害は全く異なります。

  • A:手足に痺れは残るものの、歩行も可能
  • B:手足の感覚はあるものの、自力では動かせない
  • C:手足の感覚もなく、全く自力では動かせない
  • D:Cの状態+呼吸不全があり自力では酸素が不足するため、酸素投与が必要
  • E:Cの状態+全く自発呼吸がなくなり人工呼吸が必要

最悪の事態としては、亡くなってしまうこともあります。呼吸中枢が機能不全を起こすことはそれだけ致死的であり、救助が遅くなればなるほど病院にたどり着く前に亡くなってしまう率が高くなるのです。

このように、A~Eのどれも頚髄損傷ですが、症状・機能障害のレベルは全く異なりますね。
どの部位でどの程度に糸(脊髄)がダメージを受けたか、それが脊髄損傷患者様にとっての予後と今後の生活の全てを決めるといっても過言ではないということです。

ここまでにも呼吸・循環障害については簡単に触れてきましたが、それぞれの機能障害による具体的な症状や、そこから発生する合併症にはどのようなものがあるでしょうか?

  • <呼吸障害>
    呼吸不全・換気不全・気道内分泌物(痰)による肺炎・無気肺
  • <循環器障害>
    徐脈・血圧低下・全身浮腫・肺水腫・循環血液量の減少
  • <消化器障害>
    麻痺性イレウス・消化性潰瘍・膵炎・排便障害
  • <排尿障害>
    尿閉・尿路感染症・尿管結石・水腎症・尿道憩室

<参考>

  • 学研メディカル
  • 落合慈之
  • 整形外科疾患ビジュアルブック

イメージしやすいように、それぞれの障害をもう少し簡単にかみくだいてみましょう。

  • 呼吸障害 → 正常な呼吸と酸素・二酸化炭素の交換ができない
  • 循環器障害 → 血液を全身にくまなく送ることができない
  • 消化器障害 → 口から肛門までの消化の流れが滞る
  • 排尿障害 → 尿を出す・出し切ることができない

呼吸・循環障害は命に係わる問題であることがすぐにお分かりいただけると思います。
実は、脊髄損傷の中では下位の障害にあたりますが、消化器障害・排尿障害も場合によっては緊急手術を要することもあれば、命に係わることもあるのです。

単純に、人間は口から食べて栄養を摂取し、不要なものを体の外に出します。それが消化液だったり便・尿と形を変えているにすぎません。
では、出すべきものを出さないでいるとどうなるのでしょうか?

答えは「はち切れる」「逆流する」です。
「はち切れる」は穿孔(穴が開く)を意味し、胃でも腸でも袋や筒状に保護されていた内容物がおなかの中にぶちまけられてしまうため、ショックを起こします。
緊急手術が必要になりますし、場合によっては亡くなってしまうこともあります。

これが尿の場合は、まずは出し切れなくて膀胱に少しずつ溜って、淀んでいきます。
次に、尿が溢れて流れるようになります。
これは失禁とは異なり、文字通り溢流(いつりゅう)といいます。

そして、淀んで細菌がたくさん繁殖した尿の一部は膀胱から上に向かって「逆流」して腎臓に達し、血液を介して全身にまわり感染症を起こします。
こちらも敗血症といって、命に関わる事態を引き起こすことがあります。

このように、下位の脊髄損傷だから安心・・・歩けてよかった!とは言い切れません。
自力で出すものを出せないため、自宅で定期的に浣腸をしたり、1日に何回も自分で管を使って尿を出す導尿をしなくてはならない方もいらっしゃいます。

もちろん、同じ仙髄の損傷を受けても全く排尿障害を起こさないこともあります。
本当に脊髄の損傷した「部位」と「程度」によって、神経学的症状と機能障害に大きな差となりますね。

機能障害の評価と予後

ここまで、脊髄損傷は脊髄という糸がどこで・どの程度の損傷を受けたかで症状と障害は変わるとお伝えしてきました。
損傷部位と程度の確定には、画像診断が欠かせません。

<主な画像診断>

  • 単純レントゲン
  • CT
  • MRI

MRI検査

まずはこれらの検査で、撮影方法を変えたり複数の情報を組み合わせて情報を得ることで、損傷部位を特定します。
ただし、骨の損傷と脊髄の損傷部位は、必ずしも一致するとは限りません。
また、完全麻痺は受傷後24~48時間で損傷部位を確定できることが多いことに比べ、不全麻痺は損傷部位の決定に時間がかかることもあります。

そして脊髄損傷の予後は、受傷直後の行動にかかっています。
症状が軽いからとカラーもせずに動きまわったりしていると、かろうじてつながっていた脊髄にとどめを刺してしまい、あとから麻痺を呈することもあります。
そのため、受傷直後はとにかく安静が必要です。
(安静度は症状や受傷時の状況で医師が判断します)

損傷が強く疑われる場合には大量ステロイドによる脊髄浮腫の予防(パルス療法)が一般的であり、それでも脊髄の圧迫や整復が不可能な症例には後方固定術・前方固定術といった手術を行うこともあります。

交通事故や転落事故等によって脊髄を損傷した患者様は、まず初期治療を受けて脊髄の損傷を最小限に食い止めます。
そして、必要があればリハビリを受けるのですが、リハビリは失った脊髄の機能を完全に取り戻すことができるわけではありません。

リハビリの目標は、受傷からの時間や障害の程度によって異なります。
早期であれば可動性の回復や残った筋力の維持と強化、体幹筋力の維持・増進と肺理学療法の併用によって肺炎などの呼吸器合併症を予防することにあります。

慢性期には、社会復帰に向けて立位や歩行訓練・車いす操作や、関節の拘縮や褥瘡予防・寝たきりの予防とそれぞれの障害に応じた目標になります。
もし排尿障害等があれば、合併症予防のために排尿訓練や自己導尿といった手技も練習します。

脊髄損傷は、ある日突然起こることの多い病気です。それでいて、残った機能障害は一生お付き合いが必要です。
障害の程度によっては車椅子生活を余儀なくされたり、寝たきりになってしまうこともあります。
障害を背負っても活躍しているパラアスリート達は、本当に稀有で素晴らしいです。しかし、彼らも傍からは見えない合併症と、日々格闘しているのです。

発症後何十年と続く人生で、機能障害による合併症は一生付き合っていかなければならない問題です。
脊髄損傷の患者様の予後は、急性期を脱したあとはいかに合併症を防ぐかにあります。

なぜなら、脊髄損傷は糸と同じで、一度切れたものは戻らないからです。
正確には超急性期の治療と安静で修復される部分もあるのですが、1年後に完全に損傷した脊髄が劇的な復活をみせることはまずありません。

近年、iPS細胞を利用した再生医療のひとつとして、脊髄損傷の患者に対する治療も治験の段階までたどり着きました。
しかし、まだ発症後日の浅いケースなど適用が限られていますし、保険適用で一般的に実用化されるまでにはまだまだ年月がかかるでしょう。
ここは、これからの医学の発展に期待というところですね。

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再生医療(脳卒中・脊髄損傷の後遺症改善)福永記念診療所