脊髄損傷

脊髄損傷の再生医療の種類

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 今現在日本で、脊髄損傷はどれくらいの人々が、どれくらいの確立で受傷しているのでしょうか?
そして、どれくらいの人がその後遺症に苦しんでいるのでしょうか?

脊髄損傷は毎年あらたに4,000~5,000人の人々が罹患し、患者総数は約10~20万人と言われています。そして、その患者様達は今この瞬間も、その後遺症に苦しんでいるのです。
その後遺症の苦しみから、患者様を解放してあげる方法は存在するのでしょうか?

「医学の進歩により、今、脊髄損傷の後遺症から解放される手段として再生医療というものが注目されています。
今回はその「脊髄損傷と再生医療」についてお伝えしていきたいと思います。

幹細胞とは

みなさんは「幹細胞」という言葉を聞かれたことはあるでしょうか?
「学生時代に生物の授業で聞いたような?」「なんかニュースで聞いたような?」という人もいるのではないでしょうか?

「幹細胞」の説明の前に、まずは「細胞とは?」ということに簡単に触れていきます。

細胞とは何か?

生き物の体を電子顕微鏡などで細かく観察すると見えてくる、身体の最小単位のことです。
私たち人間が行っている呼吸や飲食、運動、思考など、すべての活動は細胞が支えているのです。

細胞のはたらきや大きさはさまざまで、例えば、血液に含まれる白血球という細胞は、体内に侵入した異物と戦うはたらきがあり、電子顕微鏡でしか見えない数マイクロメートル(*1)くらいのサイズです。
一方、情報を伝える神経細胞などは、1メートル近い長さのものもあり、多種多様な細胞が人間の活動を支えているのです。
【*1 マイクロメートル(㎛)は長さの単位。1マイクロメートルは0.001ミリメートル】

人間の体は、そんな“細胞”が集まって“組織”となり、組織を組み合わせたものが肺や心臓などの“器官”であり、さらに器官の機能を系統立てて分類したものが呼吸器系や循環器系などの“器官系”、そして器官系が揃うと命を持った“個体”になるのです。つまり、人間がさまざまな活動をしながら生命を維持していけるのは「細胞」のおかげなのです。

逆にいうと、「個体」側から細胞を考えてみても、体には体内の環境を一定に保ち、細胞の生命を維持するための仕組みがあるのです。
細胞は体の活動を行うために働き、そして体も細胞の生命を維持する。つまり、体は細胞のためにあり、細胞は体のためにあり、お互いが必要不可欠な存在として成り立っているのです。

細胞の内部

細胞の中には“核”や“ミトコンドリア”などが存在し、まるで小宇宙のようになっています。

細胞の内部

細胞のはたらき

細胞の基本的なはたらきは①エネルギーを生み出し、②内部と外部を区切り、③分裂するということです。

①人間が活動するために「エネルギーを生み出す」はたらき

内臓の細胞が摂取した食物の消化・吸収を行い、全身の細胞が食物を分解した栄養素を取り込みやすい物質に変換したり、実際に使えるエネルギーを生み出しているのです。

②「細胞内と細胞外を区切る」はたらき

性質の異なる細胞内液と細胞外液を分けて、細胞内の環境を一定に保ち、細胞が安定して働くことができるようにしています。このはたらきにより体の健康を保つことができると言えるのです。

③「遺伝情報をコピーして分裂し、増殖する」はたらき

人間が子供から大人に成長したり、怪我をした部分が治ったりするのは、細胞が分裂するからなのです。また、親から子へ遺伝情報が伝わっていくのも細胞の重要なはたらきと言えるのです。

以上が細胞の基本的な3つのはたらきですが、細胞にはこの基本的なはたらき以外にも細胞によって異なる専門的なはたらきもあるのです。

その専門的なはたらきをする細胞の中に「幹細胞」があるのです。

細胞の専門的なはたらき

  • ①分泌:液などを体外に分泌したり、ホルモンなどを体内に分泌する
  • ②吸収:細胞膜にある物質も出入り口から、特定の物質を吸収する
  • ③保護:周囲の重要な細胞を保護し、なにかの原因で壊れた際には補修を行う
  • ④伝達:感覚器官などが得た情報などを脳に伝達したり、脳からの指令を全身に伝える
  • ⑤支持:周囲にある細胞や組織などの形状や構造を支持する
  • ⑥運搬:生命の維持に必要な物質を全身に運搬する
  • ⑦戦う:体内に侵入したウィルスや最近などの異物と戦い、無効化する
  • ⑧感じる:光や音、におい、触覚などを情報としてとらえる
  • ⑨運動:細胞が収縮し、その力で体や器官を動かす
  • ⑩変化:他の種類の細胞に変化して組織を生成する→幹細胞

あらゆる可能性に満ちた“幹細胞”

前述したように、人体にあるほとんどの細胞には「自分と同じ細胞を作って増殖する」という基本的なはたらきがあります。
しかし、細胞の中には「増殖」に加えて“自分とは異なる細胞になる”というはたらきを持つ細胞があるのです。それが「幹細胞」なのです。

ちなみに、
●自分と同じ細胞を作って増殖する⇒分裂
●自分とは異なる細胞になる⇒分化
と言い、幹細胞はこの“分化”ができる細胞なのです。

幹細胞にも分化できる範囲などによって、いくつかの種類があります。

①多機能性幹細胞

人間の全細胞になることができる細胞。個体にはなれないが、あらゆる種類の細胞へ分化する可能性がある。

②体性幹細胞

各器官の細胞になることができる細胞。血液や肝臓など、決まった器官などの細胞に分化できる。

③前駆細胞

最終分化の1つ手前の細胞。自分以外の1種類にだけ分化できる。

幹細胞の中でも最も全能性を持った細胞が“受精卵”であり、あらゆる細胞に分化でき、個体まで形成することが可能な究極の細胞と言えるのです。

傷口が治るメカニズム

ここまで、細胞・幹細胞についてお伝えしてきました。細胞の働きによって私たちの生命が維持されていること理解していただけましたでしょうか?
私たちの体が細胞によって維持されている分かりやすい例として、怪我をしたときのことを想像してみてください。

転んで怪我をした!血が出ている!!
でも、時間が経てば血は止まり、かさぶたができ、傷口はきれいに治りますよね?
この当たり前のことにも、何にでもなれる「幹細胞」のはたらきが大きく関与しているのです。

転んで怪我する

【怪我をした!】
 ↓
【炎症期】
怪我をして血管が損傷すると、血液の細胞である血小板が活性化して傷口に集まり血小板血栓(血小板のかたまり)を形成して止血します。

固まった血液の中には細菌などが存在します。このため止血はしても傷口は炎症を起こしています。そこで、まず集まってくる細胞が好中球です。これらが細菌を食べていきます。
さらに、マクロファージ(大食細胞)と呼ばれる白血球の仲間の細胞が集まり、好中球でも殺せなかった細菌を食べていきます。

以上のような好中球やマクロファージといった細胞のはたらきで傷口の中がきれいになっていきます。
 ↓
【増殖期】
外気に触れた体液が乾いて、かさぶたができます。
かさぶたの下では細胞が増殖し、表皮が再生され、毛細血管が生まれ、傷を埋めるようにして新しい組織が形成されていきます。

ここで、何にでもなれる幹細胞が血管の細胞になり、表皮の細胞になり、その他の欠損した細胞になり、傷の治癒に貢献しているのです。
 ↓
【成熟期】
表皮は元の通りに再生します。
見た目には傷口は治っていますが、表皮の下では1年以上も元の通りに治ろうと細胞が常に活動しています。

年を取ると幹細胞の数が激減する

年齢を重ねると、「傷が治りにくい」「目が悪くなる」「肌のツヤがなくなる」「筋力が衰える」「骨がもろくなる」「抵抗力が弱くなる」・・・等さまざまな老化現象がでてきます。
これは全身に分布している幹細胞の数が減少し、さらにそのはたらきも衰退していくからなのです。

体の治癒力の源ともいえる幹細胞のはたらきが衰え、さらに数も減少するため、年を取るにつれ体が次第に衰えていくのです。

サイトカインとは?

サイトカインとは、細胞が生成・分泌するたんぱく質であり生理活性物質(情報伝達物質)の総称です。
サイトカインは、細胞にシグナルを発し、免疫や炎症反応の調節などの調整といった生体防御のほか、細胞の増殖や分化の調整、アポトーシス(細胞の死)にも関わると言われています。

サイトカインは産生される細胞によってその種類・名前が異なります。
例えば、白血球が分泌するサイトカインはインターロイキン(IL)とよばれ、それに続く数字で命名されています。

サイトカインは幹細胞を活性化する

古くは、細胞のはたらきは脳の指令によってコントロールされていると考えられていました。
しかし、実は脳を介することなく、細胞同士がさまざまな手段を使って会話、つまり情報交換をしていることが分かってきたのです。
その手段の一つが“サイトカイン”なのです。

ある細胞から分泌されたサイトカインが標的となる幹細胞のレセプター(受容体)と結合し、細胞内のシグナル伝達によって標的細胞を活性化させるのです。

幹細胞を培養して増やすことができる

受精卵から作られた幹細胞“ES細胞”

「世界で最初に幹細胞を培養して作られたのがES細胞」と言われるものです。
ES細胞は英語で Embryonic Stem Cells 日本語で言うと胚性幹細胞です。
6~7回ほど細胞分裂をした受精卵の一部を取り出し、人工的に作り上げた幹細胞のことです。
ケンブリッジ大学のマーティン・エバンズ博士らが1981年にマウスによる実験でES細胞の培養技術を確立し、1998年に人間の受精卵を使ったES細胞の培養に成功しました。

受精卵由来の多能性幹細胞であるES細胞は、培養する環境を調整することで、人体の全ての器官の細胞に分化でき、再生医療へ応用される可能性を秘めていたのです。

しかし、他人の体をつくるため「拒絶反応」が起こる可能性、そして受精卵を使用するという倫理的な問題があったのです。

ES細胞の問題をクリアした“iPS細胞”

京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めて、2007年に人間のiPS細胞の作成に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことは皆さんもご存知だと思います。

iPSは英語でInduced Pluripotent Stem Cells 日本語で人工多能性幹細胞です。
その名の通り、人体のほとんどの細胞に分化する能力を持つ人工の多能性幹細胞です。
機能的にはES細胞と似ていますが、自分の細胞を培養して作ることができるため倫理的な問題と拒絶反応の問題をクリアしたのです。

ips細胞

そして今はiPS細胞の培養技術を応用して、さまざまな治療の研究が行われています。
その一つが脊髄損傷を治療する再生医療なのです。

しかし、再生医療にすべての幹細胞を用いることができるわけではなく、「間葉系幹細胞」と呼ばれる幹細胞が用いられています。
この幹細胞は骨や脂肪細胞などの広範囲の組織に分化することができ、骨髄や脂肪細胞、歯髄などから比較的容易に入手でき、培養して増やすことができるのです。

幹細胞は投与すると炎症を起こしているところに遊走する

再生医療では、自分自身から採取した幹細胞を体外で培養し、一定数まで増やした後に再び体内に戻します。
体内に再び戻したとき、体内のどのようなメカニズムによって壊れた組織が再生されるのでしょうか?

幹細胞は炎症を起こしているところに遊走するという性質があります。 ここには前述したサイトカインが関与しているのです。ここで働くサイトカインは遊走因子と呼ばれます。

白血球(好中球など)を細菌の侵入場所へ呼び寄せたり、T細胞などを免疫反応の起こる場所へ呼び寄せるなど、細胞を移動させるために働くサイトカインを遊走因子と呼びます。
そして、この遊走させるサイトカインをとくにケモカインと呼んでいます。

【傷が治るメカニズム】の項でも触れましたが、怪我をして炎症を起こした箇所を治すために幹細胞が集まり、何にでもなれる幹細胞が分化して組織を再生するのです。
そして、この幹細胞が炎症を起こしているところに遊走するメカニズムを応用して、脊髄損傷の再生治療が行われているのです。

ステラミック注という薬が薬事承認、保険収載された

●2018年11月 ニプロと札幌医科大学が開発した脊髄損傷治療薬「ステラミック注」が薬事承認された。
●2019年2月 「ステラミック注」が薬事収載された。

すべての患者様に使用できるわけではありませんが、世界で初めて脊髄損傷の再生医療製品として販売承認が下りました。

患者様自身の骨髄液から間葉系幹細胞を採取し、この細胞を培養して1万倍に増殖させ、5千万~2億個の幹細胞にする。
そして、100mlの生理食塩液で希釈して点滴投与するというものです。
ただし、先ほども述べたようにすべての患者様に適用されるわけではなく、受傷後30日目途で骨髄液が採取可能な場合に限られ、慢性的な患者様への保険適応は未だ認められていません。

リハビリを併用することが重要

失ってしまった体の機能を取り戻すためには、再生医療の技術だけではなく、患者様自身の積極的なリハビリテーションが必要になってきます。
リハビリテーションによって残存している機能を最大限に生かし、再生医療の力を借りて失った機能を取り戻すことが重要なのです。

リハビリ

最後に・・・

医学は日々進歩し、回復する見込みの無かった脊髄損傷にも治癒の光が見えてきています。
それが「ステラミック注」という再生医療製品の開発であり、自身の幹細胞を体内に戻すという再生医療なのです。
まだまだ再生医療は100%の患者様が、元の通りの生活を取り戻すということには至っていません。しかしながら、そんな中でも元の生活を取り戻した患者様がいるのも事実です。
脊髄損傷の後遺症に苦しむ患者様にとっては、それが希望の光ではないでしょうか?
その光が今度ますます大きくなり多くの患者様の未来を明るく照らすようになれば良いですね。

<参考文献>

  • 西東社 「カラー図解 免疫学の基本がわかる辞典」著 鈴木隆二
  • 池田書店 「まんがで分かる細胞のはたらき」監修 坂井建雄
  • 再生医療製品 「ステラミック注」添付文書
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再生医療(脳卒中・脊髄損傷の後遺症改善)福永記念診療所