再生医療

脳梗塞の再生医療の実状

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現代、高度に医療が発達してきましたが、それでも脳卒中を始めとする生活習慣病は増え続け、難病も数多くあります。これらの病気を完治するのは難しく、薬による対症治療がほとんどでした。そこに新たに登場した治療方法が「再生治療」です。再生医療は細胞や組織、サイトカインを用いた治療方法で、今まで困難だった疾患治療に、新たな道を開くものです。ここでは、脳梗塞の再生医療の実情についてご紹介します。

再生医療とは

再生医療は「人の細胞から臓器や組織を作って、けがや病気を治す医療」で、以下のような細胞を使った変遷で、再生医療が取り組まれてきました。

・1991年―間葉系幹細胞(caplanら)
・1998年―ES細胞(胚性幹細胞)※人の受精卵から作るので、倫理的課題があり、研究に慎重さが求められます。
・2007年―iPS細胞(人工多能性幹細胞)※万能性であるために、腫瘍化し易い問題があり、まだ研究段階にあります。
・2010年以降―間葉系幹細胞からのサイトカインによる臨床効果の報告が増えてきています。

現在、その中で実用化されているものとしては、免疫拒絶反応が少ない間葉系幹細胞、および間葉系幹細胞が分泌するサイトカインです。また、それらの作用としては幾つか推測されますが、大きく 3 つ(①神経栄養因子による神経栄養・保護作用、②血管新生作用、③神経再生作用)が期待出来ます。また、現在では骨髄液にある骨髄間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem Cell)を使った治療法が注目されています。国内外で行われる治験(※)の多くはこの骨髄間葉系幹細胞、サイトカインを使っています。

治験

薬品を商品化・販売するには、いくつかの段階があり、最も重要なのが「治験」となります。治験とは人に治療を施す際の有効性や安全性について調べる「治療の臨床試験」のことです。
治験は3段階に分かれます。

Phase 1―健康な成人:安全性や吸収・排泄などの確認
Phase 2―少数の患者:用量・有効性の確認
Phase 3―多数の患者:有効性・安全性の確認
Phase3では多くの患者を対象にするので、他施設と共同で行うことがほとんどで、Phase 3を経て厚労省の承認が下りれば、販売開始となります。販売後も治療効果や安全性については、引き続き情報を集める義務があり、これは法律に定められた「製造販売後(臨床)試験」と云います。その結果は報告されて再審査され、何らかの問題があれば販売中止になることもあります。

国内の再生医療の現状

札幌医科大学の治験

1990年代後半より骨髄間葉系幹細胞が注目され、経静脈投与によって「脳梗塞に伴う神経症候に治療効果がある」との基礎研究結果が多数報告されました。2007年に医師主導臨床試験Phase2として、脳梗塞患者様12名に対する自己骨髄性間葉系幹細胞の静脈投与が行われました。投与を契機として、脳梗塞巣体積の減少、12人中7人でNIHSSスコア(脳卒中重症度スコア:高い方が悪い)の改善が認められました。その後の経過フォロー期間中にも、出血、肺塞栓症、腫瘍化といった重篤な合併症は認めず、有効性と安全性が確認されています。また、脳梗塞発症から133日後に細胞投与した患者様も、脳梗塞巣体積が減少し、NIHSSでも8→0点と著明な改善が見られました。このことから、細胞投与が例え慢性期になったとしても有意な効果が得られると考えられます。自己骨髄性間葉系幹細胞の静脈投与では、脳出血、脊髄損傷、再発の予防、動脈硬化の改善、認知症・心不全・腎不全・肝不全・アンチエイジングなど、次々と成果が明らかになってきております。Phase3の段階では2014/2/6の日経新聞によると、「ニプロが製造コスト削減、大量生産につなげるため約5億円を提供し、実用化を目指す」と報道されていました。

骨髄性間葉系幹細胞が医薬品として厚労省で承認されました。

交通事故やけがなどで脊髄を損傷すると、手足の麻痺などの深刻な障害が残りますが、幹細胞は損傷している神経などに集まってくる性質があるため、血管や神経を再生することが出来ます。治療の対象は自力歩行が困難な比較的重症な患者さんで、損傷から1ヶ月以内に骨髄から採取して治療すると失われた感覚や運動機能の改善が期待されます。実際、治験では治療受けた13人の内12人に効果がありました。そして、2018/11/21にニプロの脊髄損傷の再生医療製品が厚労省の専門部会で製造販売の承認を了承されました。販売後にも調査が必要な条件付きの承認となり、今後は中央社会保険医療協議会などの審査を経て、薬価や保険適用の可否などが決まります。脊髄損傷患者は国内に10万人以上いて、毎年5千人が新たに増えているとされ、リハビリにより一部の運動機能が戻ることもありますが、更なる再生医療の進歩が望まれます。

北海道大学:自己骨髄性間葉系幹細胞

「新たな培養・移植・イメージング技術を駆使した自己骨髄性間葉系幹細胞移植による脳梗塞再生治療-治療メカニズムの解明を目的とした臨床試験」を準備しています。急性期脳梗塞患者を対象に、自己骨髄性間葉系幹細胞(BMSC)製品を脳内移植によって、脳機能の再生・回復を図り、治療の安全性・有効性を高めて、治療メカニズムを解明しています。2016年にPhase 1を開始し、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から安全性などを相談し、治験審査委員会(IRB)の承認を経て、年度中に治験届が提出されました。

東北大学:Muse細胞(新規多能性幹細胞)

成人ヒトの間葉系組織に多様な細胞に分化する新タイプの多能性幹細胞(Muse細胞)を発見しました。

特徴

・骨髄、皮膚、脂肪などの間葉系組織に主に存在し、又いろんな臓器の結合組織にも内在します。市販の間葉系培養細胞からも得られて、アクセスがし易い。
・1つの細胞から体中のいろんなタイプの細胞に分化可能で、自己複製能もあります。
・元々体内に存在する細胞なので、腫瘍化の危険が極めて低い。
・既に行われている骨髄移植(0.03%)や間葉系幹細胞移植(~1%)の一部の細胞に相当し、安全性の実績があります。
・線維芽細胞と同じくらいの増殖力を持っています。

利点

・誘導せずに、そのまま血中投与するだけで組織修復出来ます。
・腫瘍を作らないと云う安全面だけでなく、分化誘導もなく生体内投与だけで、組織修復細胞として働く簡便性があります。

ES細胞やiPS細胞を再生医療に用いる場合は、目的とする細胞に分化誘導し、さらに腫瘍化の危険を持つ未分化の細胞を除去すると云う2つの要件が必要です。でも、Muse細胞は採取後体内に投与すれば障害部位を認識して、そこに生着して組織に応じた細胞に自発的に分化します。現在、世界中で数多くの臨床試験が展開、安全性が担保され、再生医療への応用が現実的と思われます。

東海大学:再生アソシエイト(※准)細胞

虚血また障害臓器における血管再生メカニズムの再生環境細胞の役割を解明し、その細胞群の治療応用の可能性を探索しています。ラットによる心筋梗塞モデルへの再生アソシエイト細胞の移植実験において、心筋梗塞改善効果や血管新生・心筋再生などの再生メカニズムの促進効果を判定しています。また、マウスの脳虚血モデルにおいては同様の再生アソシエイト細胞の移植において、脳梗塞治療への可能性を探っています。

研究成果

再生アソシエイト細胞の移植治療後は、血管再生効果による毛細血管数の増加が確認され、炎症マクロファージ(※)の減少・消滅、抗炎症マクロファージの増幅が確認されています。
また、心筋梗塞モデルからは28日後の心エコー検査において、左室LV駆出率(※)、左室内径短縮率が改善され、心臓カテーテル検査でも左室拡張終期圧が減少傾向でした。神経内科によるマウス脳虚血モデルへの移植においては、移植のタイミング、細胞数の検討などが進められ、予備実験ではその移植効果が観察されています。整形外科グループとの共同研究においては、椎間板・関節障害モデルでの治療効果について検討予定です。

※マクロファージ:生体内に侵入した細菌などの異物を捕らえて、細胞内で消化する大型のアミーバ状細胞で白血球の一種。
※左室LV駆出率:1回の拍出で何%の血液が出せるかと云うもので、低ければ左室の力が弱まっていることになり、心臓手術などのリスクが高まります。正確な値は心臓カテーテルで測りますが、凡その目安値なら心エコーで計算できます。

慶応義塾大学:HGF(肝細胞増殖因子)。iPS細胞

脊髄損傷を中心にした中枢神経系の再生医療

中枢神経系疾患の脊髄損傷、脳梗塞、筋委縮性側索硬化症(ALS)は一度発症すると著しい機能障害を生じ、ほとんど寝たきり状態になった末、筋委縮性側索硬化症では死に至る厳しい疾患です。これらの治療開発を目的として、先導的成果を報告してきた研究者(慶応義塾大学、東北大学、その他)、新たな薬剤を開発してきた製薬会社、ベンチャー企業が参画してプロジェクトが立ち上がりました。

目標

① 脊髄損傷に対する再生医療の開発
マウス及びサルによる脊髄損傷モデルに対する幹細胞(iPS細胞・ES細胞・骨髄間葉系幹細胞)由来の神経幹細胞移植を行って、その有効性と安全性を探ります。さらに、我が国で開発された肝細胞増殖因子(HGF)、その他を用いた脊髄損傷に対する臨床応用を達成する。

② ALSに対する再生医療の開発
筋委縮性側索硬化症(ALS)は全身の筋委縮の末、呼吸麻痺から死に至る疾患でしたが、日本で発見された神経栄養因子である肝細胞増殖因子(HGF)をラットに対して、組み換えHGFタンパク質の脊髄腔内投与することで、顕著な延命効果が示されました。この効果に基づき、人に対しても同様に、ALS治療を目指しています。

③ 脳梗塞に対する再生医療の開発
ヒト骨髄間葉系細胞から誘導した神経前駆細胞を用いる治験については、サイバイオ社がアメリカでの承認に向けFDAと最終段階の折衝に入っています。本プロジェクトでも日本での脳梗塞への有効な細胞移植方法の確立を目指しています。

具体的成果

① 脊髄損傷に対する再生医療
・脊髄損傷に対するHGF:
2007年ラット脊髄損傷に対して有効性が明らかになりました。2011年コモンマーモセット脊髄損傷に対しても、有効性、安全性が報告されています。東北大学と共同でカニクイザルの脊髄腔内へのHGFタンパク質持続投与による安全性データを集め、ALSに対する第Ⅰ/Ⅱa相治験へと進んでいます。2012年にはスーパー特区を活用したPMDAとの事前相談も行いました。

・脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経幹細胞移植:
2010年マウス脊髄損傷に対し、iPS細胞由来神経幹細胞移植を行い、その有効性と安全性を報告、また、2011年には免疫不全マウス脊髄損傷に対しても、その有効性が報告されました。2012年には前臨床研究の最終段階として、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞(iPS-NSC)
移植によるコモンマーモセット脊髄損傷モデルの運動機能回復に成功しました。でもその一方、危険なiPS細胞由来神経幹細胞移植によっては、腫瘍形成も明らかになりました。この造腫瘍性の問題を解決するために、細胞株の安全性に関する評価基準の策定に取り組んでいます。また、腫瘍形成後の対応策として、免疫拒絶を利用した他家移植細胞の選択的除去方法の確立に向け、腫瘍化したiPS-NSCを選択、除去出来る方法を開発しました。

② ALS治療法の開発
ALS対象の組換えHGFタンパク質の臨床試験実施に向け、マーモセット及びカニクイザルによる非臨床試験として、脊髄腔内投与による安全性と薬物動態を確認し、第Ⅰ相試験での用量・用法を設定し、治験薬を製造しました。2011年には東北大学病院において第Ⅰ相試験を始め、2012年末までに単回投与群第3コホート(※臨床試験の対象者集団)で行い、2016年から2019年8月までは第Ⅱ相試験(医師指導治験)を行う予定です。

③ ヒト骨髄性間系細胞移植による脳梗塞治療法の開発
脳梗塞に対するヒト骨髄由来神経再生細胞の臨床試験の承認をアメリカFDAから取得し、臨床試験をスタンフォード大学などで開始しました。海外での開発・販売については大日本住友製薬と、また国内の治験実施には帝人ファーマ社と事業提携し、スーパー特区にPMDA薬事戦略相談のための問い合わせを行っています。

サイトカイン療法(SGF-OK)

幹細胞を使用する以外に最も期待される再生医療がサイトカイン療法です。幹細胞は多くの成長因子や血管新生因子、神経再生因子を分泌していることが分かってきました。しかし、幹細胞治療では、自身の細胞を採取・培養して移植する必要があるため、採取から治療までに数ヶ月の期間が必要でありオーダーメイド医療のため高額医療になってしまいます。しかし、サイトカイン療法では幹細胞を含まず損傷した組織を治すのに必要なサイトカインのみを補充出来るため、破綻している血管環境の改善、血管新生、神経再生を促進することが可能です。また、日本国内でも安価に実施出来ることになるため、脳卒中の再発予防や改善には、このサイトカイン療法を進めていくべきです。また、我々の開発する臍帯幹細胞由来のサイトカイン(SGF-OK)は、骨髄などに比べて数倍のサイトカインが含まれ、多くの効果が期待出来ることも分かってきています。韓国などの諸外国から輸入されるサイトカインには、そもそもサイトカインが入っていない製品が多く見られる様ですので、今後はこの辺の見極めも大事になってくると思われます。

国外のベンチャー企業SanBio

脳梗塞の再生医療の製薬を進めている企業の一つが「サンバイオ株式会社」です。2001年森敬太氏によって、サンフランシスコで創業されました。2014年には慢性期脳梗塞患者を対象とした治験で、再生細胞薬の安全性・有効性を確認し、2017年にPhase2bを開始しました(150名の患者に投与)。

SanBioが使用する薬 再生細胞薬SB-623とは

健常なドナーの骨髄液を培養して骨髄間葉系幹細胞を採取します。採取から製剤まで約2ヶ月かかります。

SB-623の効果

・神経細胞や血管を作る
・炎症を抑える
・神経細胞を守る

投与方法

定位脳手術で頭蓋骨に直径1㎝ほどの穴を開けて、損傷部位に直接SB-623を注射で移植します。局所麻酔なので翌日に退院も出来ます。
SB-623は元々脳内にある神経幹細胞の働きを活性化させる細胞なので、刺激を与えることで損傷部位に新しい神経細胞を作り出すのを助けます。さらに、脳梗塞後の炎症を抑えて今ある神経細胞を守り、新しい血管を作ることで神経細胞に栄養を与えて、脳の機能を回復させます。

メリット

SB-623の最大のメリットは他家移植と云って、健常な他人の細胞を移植出来ることです。
自身の細胞を採取・培養して移植する自家移植では、採取から治療までに数ヶ月の期間が必要ですが、凍結保存される他家細胞なら待つことなく治療出来ます。その上、自家移植はオーダーメイド医療のため高額医療費になりますが、他家移植では量産によってコストが大きく抑えられるため、他家製品は今後進めていくべき医薬品になります。

いかがでしたか、脳梗塞は年間約30万人が発症する国民病で、それにかかる医療費は年間約2兆円、社会的損失に至っては約8兆円とも云われています。また、要介護状態になる主原因の第1位も脳血管疾患が占めています。近い将来、この脳梗塞再生医療が実用化されれば、どれほど社会に恩恵を与えられるか、期待されます。

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再生医療(脳卒中・脊髄損傷の後遺症改善)福永記念診療所