脳梗塞の治療の新たなカタチ「再生医療」とは?
《 目 次 》
脳梗塞では、血管の中にできた血の塊が脳の血管を詰まらせて、脳の神経細胞を壊死させます。
すると壊死した部分の機能が失われて、四肢や言語に後遺症が残ります。
脳梗塞発症後3時間以内なら、tPA静注療法で血栓を溶かして神経細胞の壊死を防ぐと云う方法があります。
でもその時間を過ぎてしまうと、「一度死んでしまった神経細胞は永久に蘇らない」と云うのが、脳医学界の常識でした。
これは、1906年にノーベル生理学医学賞を受賞した脳神経解剖学者のサンティアゴ・ラモン・イ・カハール博士が「脳は再生しない」と断定したことによるものでした。
以後、脳神経機能再生に関する研究は長い間停滞してきました。
しかし近年、脳梗塞の先進治療である血管再生が神経組織・機能の再生をもたらすと云う研究がなされています。
それが「自己骨髄幹細胞」を用いた先進治療である脳梗塞の再生医療です。
脳梗塞の再生医療
脳梗塞の再生医療の現状
国内の先進治療による脳梗塞の再生医療は現在、治験中または治験の前段階です。
その中で先行しているのが、骨髄間葉系幹細胞を用いて治験段階にある「札幌医科大学」と「北海道大学」の2校です。
北海道大学はまだかかりそうですが、札幌医科大学では3~5年後の実用化を目指し、2018年末にはまだ脊髄損傷患者さんに対してだけですが患者自身の細胞を使った再生医療製品の製造販売が、厚労省から承認されました。
脊髄損傷の再生医療製品が承認されたのは世界で初めてで、公的医療保険の適用対象となっています。
静脈注射で幹細胞を投与する自己幹細胞静注療法は、人間が本来持っている自然治癒力を生かした医療ですから、脊髄損傷に限らず、脳梗塞、脳損傷はもちろん、ALS(筋委縮性側索硬化症)などの神経難病、さらにアルツハイマー病などにも適応拡大の可能性があります。
現時点では急性期に限っていますが、今後は慢性期での応用が期待されます。
大学名 | 細胞 | 疾患 | 段階 |
---|---|---|---|
札幌医科大学 | 自家骨髄間葉系幹細胞 | 急性期脳梗塞 | Phase3 |
北海道大学 | 自家骨髄間葉系幹細胞 | 急性期脳梗塞 | Phase1開始 |
東北大学 | Muse細胞(新規多能性幹細胞) | 心筋梗塞 | Phase1準備中 |
東海大学 | 再生アソシエイト細胞 | 亜急性期脳梗塞 | Phase1準備中 |
慶応義塾大学 | HGF(肝細胞増殖因子)iPS細胞 | 急性期脊髄損傷 | Phase1・2開始 |
神経や血管の再生
脳梗塞が起きると、脳回復の為に神経細胞の基である神経幹細胞が、梗塞を起こした脳の周辺に集まってきます。
でも、せっかく集まった神経幹細胞も、栄養供給の血管がないとすぐに死んでしまいます。
骨髄幹細胞を移植する(いわゆる再生医療)ことで血管や神経の再生を活性化し、誘導された神経細胞が生着、成熟することで、神経機能が改善することが期待出来ます。
また、破綻してしまった血管や脳組織の修復が起こり、再発予防に役立つと考えられます。
脳梗塞再生医療の治療の流れ
脳梗塞に対する再生医療は未だ保険で認められていない治療になるので、治療自体は自費診療になります。
患者さんの全身状態、採血、診察等にて幹細胞治療が可能であるかを判断します。
患者さんの腸骨(お尻の骨)から骨髄液約数十mlを局所麻酔で10分ほどかけて採取します。
その後、骨髄液からMSC(間葉系幹細胞)を取り出し、2週間ほどで1万倍(5000万~2億個)までに培養し、1週間ほどかけて安全性をチェックして、約40ccの細胞製剤にします。
患者の体調と細胞製剤の準備が整うと、パックされた製剤を生理食塩水に溶解して30分~1時間かけて静脈に点滴投与します。
直接、開頭をしたりなどの手術が必要になる分けではないので、患者さんの負担が軽いのがこの治療の特徴です。
サイトカインカクテル療法
幹細胞を培養すると、幹細胞は幹細胞自体を守るために色々なサイトカインを放出します。
サイトカインカクテル療法は、抽出したサイトカインを応用した治療法です。
幹細胞から放出されるサイトカインを利用することで、幹細胞移植治療と同等の効果が得られるとされていますが、臨床上はやはり幹細胞治療には劣ってしまいます。
サイトカインは細胞間に指令や情報を伝えるタンパク質で、私たちの怪我が自然に治るのも、このサイトカインのお陰なのです。
また、サイトカインは、臍帯や脂肪、乳歯、骨髄などをソースとして培養することで抽出します。
そのため、それぞれの培養方法やソースにより、神経を治すサイトカイン(BDNF、NGF、GF)、血管再生のためのサイトカイン(VEGF)が含まれている量が異なります。
特にニューロテック治療用に開発される臍帯由来幹細胞由来のサイトカイン(SGFOK)は、これらの有効成分が他のソースと比べて2~3倍以上多いということも報告されています。
治療方法
症状の改善効果を高めるために、最も脳への薬物移行が早い点鼻投与を行います。
上向きで横になり、鼻を上に向けます。
首などの病気が無ければ、肩枕を使用します。
凍結されているSGFOKを2~3分程度、手で溶かし、自己にて器具を用いて鼻内に投与します。
そして、20分程度そのまま寝て貰います。寝る前にすれば、そのまま寝ることが出来るので、時間を効率的に使えます。
投与間隔は、1日1回投与が原則ですが、2~3回/週で投与され、効果判定は3か月程度を目安にします。
メリット
- 発症後の年数に関わらず治療が可能で、効果も期待できます。
- 手術や痛みを伴わないので、年齢制限がありません。
- 回復期、慢性期の後遺症にも有効です。
デメリット
- 未だ、研究段階の治療になり、保険は使えません。
- 現在調べられるウィルス検査を実施していますが、未知のウィルスが混入してしまう可能性が否定できません。
- 最新治療法だから、症例数が少なく長期での効果・成績が確認されていません。
副作用
- ごく稀に、発疹(アレルギー反応)がみられることがあります。
- 身体が温かく、ふわふわする、ふらつく感じがするなどの症状は2~3日で治まります。
- よく寝れる様になったという方も多いです。
脳梗塞のHAL療法
脳が「歩こう」と云う信号を発信すると、伝えられたスーツがその動作を補助します。
それを繰り返すことで、個人の歩き方をロボットが学習するサイクルで動作がスムーズになるわけです。
進化するHALスーツ
筋力が低下した高齢者や障害者の人がロボットスーツを使用したリハビリを利用すると効果的であると云われています。
HALスーツは開発が進み、HALスーツ3では下半身の動きをサポートし、運動機能が低下した高齢者に装着してリハビリをサポートします。
従来のものは動きに制限がありましたが、最近開発されたHALスーツは正座が出来るまでに精度が高まっています。
リハビリプログラムをサポートしたり、筋力を測定したりと機械的な観点から、数値を割り出すことが出来ます。
また、関節可動域訓練、筋力維持訓練、立ち上がり・座り動作訓練などいろいろなプログラムに応用が可能です。
人間だけで行うリハビリでは、かなりの練習量が必要ですが、脳や神経に学ばせるコンピュータの学習能力によって、早めの回復効果が期待できるのは大きな優位性となるでしょう。
脳梗塞の低周波治療
方法
- 手の拘縮が強くて拳を握ったままの状態の場合、粘着パットを腕の外側に貼り付けて電気を流します。
- パンパンパンと一定のリズムで筋肉を刺激します(10~30分)
- 拘縮の強い場合は、この刺激では動かないことがありますが、徐々に筋肉がほぐれてきて、指などが電気刺激に合わせて動き出します。
- 指などが電気刺激に合わせて動き出せば、次は電気を緩めて自分で動かせる範囲を拡大させていきます。
脳梗塞の磁気刺激療法
この治療によって、脳梗塞後も残っていた脳神経細胞を活性化させて、失われた脳機能を担当させる促進効果が期待できます。
メリットと特徴
- 入院の必要がない
- 痛みがない
- 麻酔を必要としない
- 着替える必要もない
治療時間は1回約20分程度で、麻痺や失語症の改善が見込まれ、嚥下障害や高次脳機能障害にも効果の可能性があります。
特に上半身の麻痺に高い効果があるとされています。
脳梗塞の反復運動療法
そこで、従来のリハビリは非麻痺側を日常生活で使えるような訓練に重点が置いてきました。
しかし、脳科学の進歩により、「麻痺した手足を繰り返し動かす訓練をすれば、脳の可塑性(※)で麻痺が改善できる」ことが明らかになってきました。
この発見により、新しい片麻痺治療の開発や研究が盛んに行われ、適切な運動を反復して行う運動療法の「Arm Basis Training」、「促通反復療法(川平法)」などが着目されています。
Arm Basis Training
姿勢制御を求められない姿勢(臥位等)で、各関節、各運動方向に最大可動域に渡って、自身で運動を反復します。
この時、必要に応じてセラピストが運動方向の修正などの援助を行います。
自身での運動がある程度できるようになったら、姿勢制御を伴う運動や、複数の関節間の協調運動へと発展させてください。
ガイドラインでもArm Basis Trainingは推奨グレードAに位置づけられています。
関節可動域制限について
各関節には、ほぼ一定の可動域がありますが、関節機能に異常が生じると、可動域が制限され、疼痛(痛み)が生じます。
関節可動域制限には、動かす時の違和感や引っ掛かり感程度のものから、本来の可動域が狭まるもの、あるいはまったく動かなくなるものまであります。
関節の拘縮
脳梗塞の神経系疾患による後遺症で、関節包の外の軟部組織に起因して、関節の可動域が制限される「拘縮」が起こります。
関節包、靭帯、筋の癒着などの関節外の組織に変性を生じて起こる運動障害です。
促通反復療法(川平法)
鹿児島大学名誉教授の医師川平和美氏が考案し、麻痺した手足を操作(促通)して随意運動を繰り返すことで、必要な神経回路を再建・強化させる治療法です。治療者による徒手的操作と、患者さんの動かそうと努力する随意運動(1セット100回程度)を反復します。
それにいくつかの促通手技を併用して、より効果的に神経回路の強化を行います。
リハビリでのポイント
①体幹や健側が弱ると、安定した姿勢バランスが取れず、遠位筋の随意性を発揮出来なくなるので、健側のトレーニングも並行して行うこと。
②原則的には中枢から末端に向かって治療を進めて行くこと。
上肢なら、肩→肘→腕→手首→指の順。
患者さんによっては脳の活性や集中力を考えて、逆から行うこともあります。
下肢の場合は、股関節→足関節→足指の順で、逆転することはほとんどありません。
効果ある治療の組み合わせ(ニューロテック治療)
ボツリヌス療法
ボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質(ボツリヌストキシン)を成分とする薬を筋肉内に注射する治療法です。
ボツリヌストキシンは筋肉を緊張させている神経の働きを抑えるので、注射すると筋肉の緊張を和らげます。
効果
ボツリヌス療法の効き目は、注射後2・3日目からゆっくり現れ、通常3・4ヶ月間持続します。
数週間でその効果は徐々に消えてゆくので、治療を続ける場合は年に数回の注射を受けます。
ボツリヌス療法を行った後に、リハビリを組み合わせて継続して行うと、より効果が期待できます。
- 手足の筋肉が柔らかくなって、動きやすくなります。
- 関節が固まって動き難くなるのを防ぎます。
- 関節の変形を予防します。
- リハビリが行い易い。
- 痛みを和らげる効果が期待出来る。
- 介護負担が軽減されます。
安全性
世界80ヶ国以上で認められ、広く使われています。
日本では手足の痙縮、顔面痙攣、痙性斜頸、小児脳性麻痺患者の下肢痙縮に伴う尖足に対して認可され、9万人以上が治療を受けています。
副作用
- 注射部位が腫れる
- 赤くなる
- 痛みを感じる
- 体がだるくなる
以上の症状は多くが一時的なものですが、現れた場合は医師に相談してください。
電気刺激療法
上記項目の「脳梗塞の低周波治療とは」を参照してください。
適応外の条件
- 心臓ペースメーカー埋め込みの患者、重篤な心疾患のある患者
- 体内に金属がある患者
- 筋収縮が禁忌となる病態(静脈血栓、術後など)
- 傷や皮膚状態が悪い部位
- 悪性腫瘍
ロボット療法
上記項目の「脳梗塞のHAL療法」を参照してください。
世界初のロボット治療機器の医療用HAL®でリハビリプログラムをサポートします。
使用条件
- 身長・体重などの体型が医療用HAL®に合うこと(目安―身長145~175㎝、体重40~100㎏)
- 著しい脊柱、関節の変形がないこと
- 背もたれ無しで、ある程度座ることが出来ること
再生医療
上記項目の「脳梗塞の再生医療」を参照してください。
損傷した神経回路の再構築にはリハビリと共に、血管再生や神経再生及び神経を保護する物質を外部から補給する再生医療が有効とされます。
※各項目の詳細は、既に寄稿しましたブログを参照してください。
いかがでしたか、脳梗塞における先進治療によって、脳の神経組織が再生し、効果的な治療法との組み合わせによるリハビリを続けることで、社会復帰も夢ではなくなってきているのです。
脳卒中・脊髄損傷、再生医療に関するご質問・お問い合わせは、
こちらのメールフォームよりお願いします。
ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。