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再生医療

「一度死んだら脳細胞は蘇らない」を覆す?脳の再生医療最新レポ…

今まで脳梗塞後遺症を改善するには、根気のいるリハビリを続けるしか方法はないと云われてきました。でも最新研究によって、幹細胞やiPS細胞、ES細胞などを用いて、傷ついた細胞を再生させる医療の総称として、「再生医療」が実用化に向けて進んでいます。今回は、そんな再生医療の現状を紹介します。

脳梗塞の再生医療とは

再生医療に使えると考えられる細胞には、代表的なものとして以下の3つが挙げられています。

代表的な3つの細胞

① 1998年 ES細胞(胚性幹細胞):人や動物の卵子から胚細胞を取り出して培養することで作られ、他の細胞に変化できる能力があります。ただ、培養するためには卵細胞が大量に必要であると云う難点があります。また、人さえも生み出せる胚細胞を操作して、将来ひとつの命となる卵細胞を犠牲にしてよいのかと云う倫理的問題があります。
② 1999年 間葉系幹細胞:人の体内に存在し、自らの機能と同じものを持つ細胞を作り出す能力と、全く違った働きを持つ細胞を作り出す能力があります。
③ 2007年 iPS細胞(人工多能性幹細胞):患者本人の皮膚細胞に遺伝子(多能性誘導因子)を加えて培養することで作られます。特徴として、他の細胞に分化する能力と、無限に増殖する力があります。
iPS細胞も研究が進められていますが、現在、実用化に最も近いのが間葉系幹細胞です。

細胞を利用した治療と細胞を利用しない治療

再生医療は、細胞を利用した治療(細胞治療)と細胞を利用しない治療(細胞治療以外)がありますが、治療方法において、以下の点が異なります。

細胞治療:体外で変化させた細胞を体内に入れて、病気やけがの治療や症状の緩和を行う
治療です。
細胞治療以外:細胞を使用せずに、損傷を受けた細胞や臓器を修復、再生、復元する治療です。
細胞を使用する、細胞を使用しないに関わらずに、損傷した組織の再生を行うのが再生治療です。がん治療における「免疫療法」は一般的な細胞治療方法として、実用レベルに達しています。また、損傷した臓器に細胞(幹細胞、iPS細胞、ES細胞)を移植することで症状の改善を目指す細胞治療を幹細胞治療と呼びます。脳卒中に対する幹細胞治療では、体内の細胞を活性化させる働きや、神経や血管を作り、損傷した脳組織を再生する働きが期待できます。

再生医療の現状

商品化・販売までのステップ

① 基礎研究
② 非臨床試験(マウスなどの動物を使って薬効薬理作用、生体内での動態、有害な作用などを調べる試験)
③ 治験:Phase1(対象:健康な成人)安全性や吸収、排泄等の確認
:Phase2(対象:少数の患者)用量・有効性の確認
:Phase3(対象:多数の患者)有効性・安全性の確認
④ 厚労省の承認
⑤ 販売
⑥ 製造販売後試験
※治療効果や安全性についての情報を報告する義務があり、問題があれば販売中止もあり得ます。

現在最先端の治験

① 札幌医大:Phase 3
1990年代後半より骨髄間葉系幹細胞に注目し、経静脈投与によって「脳梗塞に伴う神経症候に治療効果がある」と云う基礎研究結果が多数報告されています。2007年に12名の臨床試験Phase2が実施され、現在Phase 3の真最中で、3~5年後の実用化を目指しています。

② ベンチャー企業SanBio
現在、脳梗塞の再生医療で最も実用化に近い企業として、世界中の患者さんから注目されているのが、再生医療界のベンチャー企業、森敬太氏創業の「サンバイオ株式会社」です。
現在、Phase2bでより多くの患者さんを対象に治験を行っていますが、実用化までの具体的な年数は不明です。尚、慢性期の外傷性脳損傷患者さんにも治験を開始しており、それが終了すれば数年後の実用化も可能と云われています。

【SanBioの薬:SB-623】
健常なドナーの骨髄液を培養して骨髄間葉系幹細胞を採取します。採取から製剤まで約2ヶ月かかります。
・効果
① 神経細胞・血管を作る
② 炎症を抑える
③ 神経細胞を守る

・投与方法
① 定位脳手術で頭蓋骨に直径1㎝程の穴を開ける。
② 脳の損傷部位に直接SB-623を注射し移植します。
③ 局所麻酔なので翌日退院も可能です。

SB-623は元々脳内にある神経幹細胞の働きを活性化させる細胞で、神経幹細胞を刺激して損傷部に新しい神経細胞を作り出すのを助けます。その上、脳梗塞後の炎症を抑えて、残っている神経細胞を守って、新しい血管を作ることで栄養を与え、脳の機能を回復させます。

・メリット
① 自家移植(自身の細胞を採取・培養して移植する)の札幌医大の治験では、静脈投与までに1~2ヶ月の期間が必要ですが、SB-623では凍結保存された他家移植(健常な他人の細胞を移植する)なので、待つことなく治療が出来ます。
② 自家移植はオーダーメイド医療だから、どうしても治療費が高くなりますが、他家移植のSB-623なら量産できて、コストを大幅に抑えられる強みが、実用化の後押しをしています。

4種類のヒト幹細胞

ヒトの体内には血液や皮膚のように常に入れ替わりながら、失われた細胞を再び補充する能力を持つ細胞がヒト幹細胞(間葉系幹細胞)と呼ばれるものです。だから、再生医療や美容の分野で、薬や化粧品の成分に使われることが期待されています。ヒト幹細胞である間葉系幹細胞は、自身を複製する能力を持ちながら、固有の系列に属する数種類の細胞へと分化出来る貴重な細胞です。間葉系幹細胞は骨髄や脂肪組織、羊膜や臍帯組織から採取することが出来、それぞれの組織の異なった特性を持ちながら、分化出来る自己再生能力を持った多能性の細胞ですから、血管や骨などの再生医療への応用が期待できます。その上、ガンなどの悪性腫瘍になる可能性が低いと云われるので、多くの臨床試験が行われています。

① 骨髄由来間葉系幹細胞

骨髄は、体の中でも血液を作る作用を持つ大事な臓器で、その中にある骨髄液の中には造血幹細胞と云って、赤血球や白血球、血小板など血液を作り出す元となる幹細胞が存在します。また、それ以外にも、骨髄の環境を構成している「間葉系間葉幹細胞」という細胞が存在します。これらの細胞は、神経、血管、筋肉,骨,軟骨,結合織などの元になる細胞です。
そして、これらの骨髄液は簡単に取り出すことが出来る上、培養技術も確立されているので、体外で増やした間葉系幹細胞を体内に投与し、脳や脊髄、神経、血管、骨や軟骨の再生が可能になるのです。
例えば、骨髄由来間葉系幹細胞を利用して、壊れてしまった脳細胞の周りの神経幹細胞を活性化させたり、再生すると云った再生医療も研究されています。

造血幹細胞移植療法

1970年代から行われている白血病治療法で、再生医療の先駆けと云われています。ガン化した造血幹細胞を放射線治療などで破壊し、新しい造血幹細胞を移植することで、新しい血液を作り出すとともに、造血幹細胞自体を増やし患者さんの体内にも定着します。

骨髄由来と脂肪由来の違い
幹細胞骨髄由来脂肪由来
採取方法骨髄採取脂肪吸引、脂肪採取
麻酔局所麻酔局所麻酔
採取日数日帰りも可能日帰りも可能
採取の難易度比較的容易容易
一度で採取出来る量少ない 5万個多い、少ない脂肪でも数万個
採取可能な年齢高齢者では減少高齢者では減少
作れる細胞神経、血管、心筋、皮膚、脂肪、皮膚など神経、血管、心筋、皮膚、脂肪、皮膚など
臨床研究歴史的に臨床研究の実績が多く、エビデンスの蓄積が豊富。特に、脳卒中や脊髄損傷の分野では症例数やエビデンスが多く報告されている。骨髄由来に比べて、研究の歴史が未だ浅い。
ステミラック注

2018年12月28日に脊髄損傷治療のために、世界で初めて骨髄由来間葉系幹細胞を用いた再生医療等製品として、ニプロ㈱が条件及び期限付きで承認を得ました。※7年間の承認期限
・効能、効果:脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善(ただし、ASIA機能障害尺度(※)A,B,Cの患者に限る)
※ASIA機能障害尺度:最も重度A(完全麻痺)~正常E
・脊髄損傷後31日以内を目安に、患者さんの骨髄(腸骨)から局所麻酔下で骨髄液を採取します。これを専門センターに送って、骨髄間葉系幹細胞を約2週間かけて約1万倍に培養します。培養によって約1億個になった骨髄間葉系幹細胞を30分から1時間かけて静脈内投与します。
・投与された骨髄間葉系幹細胞は、損傷した脊髄周囲の血管新生や抗炎症作用や脊髄神経の再生を行って、神経症候や機能障害の改善効果を示します。

② 脂肪由来間葉系幹細胞

皮下脂肪などの脂肪の中にある幹細胞のことで、近年の研究によって、神経や血管、神経などになることの出来る力があることが分かり、骨髄由来間葉系幹細胞と並んで再生医療に利用出来るのではないかと期待されています。

特徴

① 採取し易い:皮下脂肪にも存在する脂肪由来間葉系幹細胞は、美容外科でも行われる脂肪吸引などで採取することが出来ます。局所麻酔なら30分程で採取出来るので、身体に大きな負担がありません。培養することが前提なら、大量に採取する必要がないので、高齢者でも痩せている方でも採取できます。
② 培養し易い:増殖スピードが早くて、培養し易く、少量の脂肪組織から数週間で100万~1,000万個まで増やせます。
③ 含まれる幹細胞の数が多い:脂肪組織1gから約5,000個の幹細胞(骨髄由来の幹細胞の500倍)が摂取出来ます。
④ 間葉系幹細胞だから、中胚葉系の細胞を作ることが出来る:脂肪由来幹細胞の95%が、中胚葉(※)由来の間葉系幹細胞だから、皮膚や骨、軟骨、心筋、脂肪細胞などになれます。
※中胚葉:ヒトの受精卵は細胞分裂して、外肺葉、中胚葉、内胚葉の3つの層に分かれて、それぞれ分担して組織や器官を作ります。
・外胚葉:脳、目、神経組織、表皮、毛髪など
・中胚葉:骨格、筋肉、循環器など
・内胚葉:消化器、気管支系など

※最近、中胚葉系以外の細胞も作れる可能性があると云われ、より多くの病気やケガに効果がある可能性が出てきました。
例―脳を構成するグリア細胞(外胚葉系)、肝臓細胞(内胚葉系)など

ホーミング効果

脂肪由来間葉系幹細胞に限らず、幹細胞にはホーミング効果と云う機能があります。これは、傷ついた組織や器官からのSOSの信号をキャッチして、幹細胞がそこへ移動して傷ついた部分を補修します。
【ホーミング=Home+ing、日本語で帰巣性:目的地に誘導されて集まって行くことを云います。幹細胞が、傷ついた部分に遊走することをホーミング効果と言います。】
海外からの報告によると、骨髄損傷患者に対し脂肪由来間葉系幹細胞を投与したところ、ホーミング効果で13%が損傷個所に集まったとされています。

実用化

① 整形外科:骨や軟骨の再生医療の研究
加齢や膝の使い過ぎで関節に痛みが生じる変形性関節症の患者さんに対して、脂肪由来間葉系幹細胞を関節内に投与することで関節組織を修復します。また、培養した脂肪由来間葉系幹細胞をシート状にして、すり減った軟骨組織へ直接移植する研究も進められています。

② 美容外科:顔や乳房へ施術することで、形を良くします。
シリコンパックやヒアルロン酸注射、脂肪注入など方法はいろいろありますが、脂肪注入では脂肪細胞の定着が難しく、効果が長続きしない課題がありました。でも、この脂肪由来間葉系幹細胞を混ぜて注入することで、脂肪細胞の定着率が上がると分かってきました。これにより、乳房再建の為や豊胸、乳房や顔のアンチエイジングなど、いろんな目的で脂肪由来間葉系幹細胞の移植が行われるようになってきました。

③ 羊膜由来間葉系幹細胞

羊水膜から取り出せる羊膜に非常に多く(数百~数千万個)存在する、未分化のヒト幹細胞で、筋肉や骨、軟骨、脂肪などの間葉系に属するいろんな細胞に分化する力や、自己複製力を持っていると云われ、免疫を抑制する力があります。この細胞を使うには先ず、この羊膜を酵素で消化し、遊離させる必要があります。幹細胞の中でも特に増殖性が高く、拒絶反応も起こりにくいので、本人(自家移植)のみならず他人(他家移植)にも移植し易いメリットがある上に、羊膜は医療廃棄物なので帝王切開予定の妊婦さんの許可を得れば、処置時に出てくる胎盤から分離するだけで、倫理的にも使用に問題がありません。
新聞によりますと、2019年には羊膜由来間葉系幹細胞を使って、クローン病(※1)や急性移植片対宿主病(※2)の症状を抑え、組織の再生を促す治験が兵庫医大と北大病院で行われるようです。
(※1)クローン病:口腔から肛門までの全消化管に非連続性の慢性肉芽腫性炎症を起こす原因不明の炎症性疾患。
(※2)急性移植片対宿主病(GVHD):臓器移植後に起こりえるドナー由来のリンパ球が引き起こす合併症のひとつ。かゆみ、皮疹、水疱、吐き気、胃痛、下痢、肝機能障害などの症状が起こります。

④ 臍帯由来間葉系幹細胞

へその緒から沢山とれるヒト幹細胞で、元々胎児と母親を繋いでいたものなので、その0歳の新しい幹細胞は未熟だからこそ、安全で且つ極めて高い増殖能力を示します。骨髄由来間葉系幹細胞と比べても、分裂回数が多く寿命も長いと云われ、非常に重要視されてきました。
1980年代前半、臍帯血には造血幹細胞が含まれることが分かり、後半には造血幹細胞の有力な供給源として、臍帯血を使った初の移植医療が日本で実施されました。近年、造血幹細胞以外の体性幹細胞である間葉系幹細胞が臍帯から発見されたことで、骨髄だけでなく臍帯も間葉系幹細胞の供給源として骨や軟骨の修復や再生医療への臨床応用されるようになりました。
更に、肝細胞や神経細胞、上皮細胞など、より広い組織への多分化能を有する前駆細胞の存在も示され、各国で熱心に研究が進められています。
現在、日本では再生医療法の施行に伴い、臍帯由来間葉系幹細胞を直接投与することは規制され、認められておりません。そのため、日本国内では臍帯由来間葉系幹細胞を含まないサイトカイン(培養上清液)のみを使用した治療のみが実施されています。

間葉系幹細胞治療は、これまでの「一度死んだら脳細胞は蘇らない」と云われた壁を打ち破る、画期的な再生医療になりえると考えております。更に効果を高めていく必要もあり、まだまだ一般への普及には時間がかかり、その後もいろんな条件が課されると思われますが、脳梗塞などの後遺症改善に新たな道が開かれたことは間違いありません。

再生医療

再生医療(脳卒中・脊髄損傷の後遺症改善)福永記念診療所