脊髄損傷が治る可能性について

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脊髄損傷が治る可能性について

《 目 次 》


脊髄損傷では、脊髄が損傷を受けた結果、運動や感覚の機能が失われます。
受傷部位や重症度によりその予後に違いがありますが、適切なケアを早期に開始し、かつケアを継続することで、機能を回復する可能性があります。
しかし生涯にわたり失った機能を取り戻すことができないこともあります。
ただ再生医療の出現により、予後が大きく改善されるかもしれません。

脊髄損傷とは

ある日突然、頭や体、あるいは頚部への外傷によって突然手足が動かなくなる、排尿排便が自分でできなくなる、それが脊髄損傷の症状です。
脊柱内の脊髄または神経根に、急激に外力が加わったために神経が損傷され、運動(運動機能)、感覚(知覚機能)、身体システム(自律神経機能)が一時的または永久的に失われてしまいます。
腰のあたりの低い位置の脊髄が損傷される場合と比較すると、頚部のような高い位置の損傷は、一般的に大きな機能喪失をもたらします。
また外傷の程度によっては、完全に手足の機能を失うこともあれば、一部の機能が温存されることもあります。

脊髄損傷から神経機能が回復するための重要な要素

脊髄損傷で失われた身体機能は、永久的となる可能性がある一方で、一部の人は完全に回復することもあります。
脊髄損傷からの回復に影響を与える要素がいくつかありますので、ご紹介します。

神経学的損傷の初期の重症度

まず、神経学的回復の予後は神経学的損傷の初期の重症度によって大きく異なります。
最初の神経損傷が酷いほど、予後は悪くなります。
逆に不完全な脊髄損傷で、損傷レベル以下の機能と感覚がある程度維持されている場合は、完全な脊髄損傷によって損傷レベル以下の運動機能と感覚が完全に失われた場合と比べて、再び機能を回復する可能性が非常に高くなります。

神経学的損傷の起こった場所

損傷が起こった場所も、神経機能の回復に影響する要素です。
一般に、胸椎の神経損傷は、頚椎(首)や腰椎(背中の下部)の損傷よりも回復の可能性が低いとされています。
その理由のひとつは、胸椎の神経損傷は場所を特定しにくいためで、診断の遅れが治療の遅れにつながることがあげられます。
なお、脊髄損傷の患者さんの多くは、受傷後6ヶ月以内に神経機能の回復を経験しますが、5年を経過しても回復することがあります。

神経損傷に対する治療開始の時期

脊髄損傷の治療に携わる医師のなかには、”Time is Spine“という表現を使う人もいます。
この言葉は、急性期と呼ばれる脊髄損傷後の最初の48時間の重要性を指しています。
急性期には神経組織が急速に死滅するため、迅速に診断して治療を開始することは、神経機能を維持するだけでなく、失った機能を回復を得るためにも重要です。
つまり、脊髄損傷の早期治療が予後に影響するということです。

脊髄損傷の予後を改善するための治療

早期から適切を行うことも重要です。
脊髄損傷が疑われる場合、救急隊員が病院に搬送しますが、救急隊員は首と背中を適切に固定する方法について訓練を受けています。
このような安全対策は、脊髄損傷から回復するために重要な役割を果たします。
病院に到着すると、集中治療室(ICU)に収容されることがあります。
呼吸や循環状態を綿密にモニターし、問題が生じたらすぐに対処することで、脊髄損傷による二次的損傷の影響を軽減し、回復のプロセスを改善することができます。
脊髄損傷後の最初の数時間は、脊髄への血流に特別な注意を払うことがあります。
異常に低い血圧は血流不全の兆候であり、血圧を適切に維持することは脊髄のさらなる損傷を防ぐために非常に重要です。
また脊髄損傷の診断を受けた直後に、ステロイドの大量投与を行うことがあります。
ステロイドの使用は、神経の回復を助け、予後を改善する可能性がありますが、急性期における使用については議論の余地がります。
さらにリハビリを継続して行うことも大切です。
リハビリは比較的急性期、入院中から開始され、その後継続して行われます。

脊髄損傷に対する再生医療について

脊髄損傷によって失われた神経機能を回復させるため、再生医療も大きな役割を果たしています。
iPS細胞を用いた治療は、すでに臨床試験に使用することが可能な神経細胞の作成に成功したことが知られています。
また脊髄損傷の患者さん自身から、骨髄間葉系幹細胞を採取し、体外で培養・増殖させたのちに患者さんに戻すことで、失われた機能を取り戻す治療も試みられています。
すでに2018年に厚生労働省の審査を受け、その有効性と安全性が認められたことから、患者さんの治療に利用できる形になっています。

まとめ

脊髄損傷で失われた機能は、これまで損傷後数週間、数ヶ月、さらには数年後も継続してケアを続けることで、生活の質と機能回復の可能性を向上させることに取り組んできました。
ただ限界があったことも事実です。
しかし再生医療の出現により、脊髄損傷の治る可能性は高くなっています。
すべての脊髄損傷の患者さんが、再び機能を取り戻すことができる日も、そう遠くないかもしれません。

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ニューロテックメディカル

貴宝院 永稔【監修】福永記念診療所 部長 再生医療担当医師 ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

投稿者プロフィール

脳卒中・脊椎損傷や再生医療に関する医学的見地から情報発信するブログとなっております。
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