《 目 次 》
視床は脳の中央部に位置し、嗅覚以外の感覚や意識に密接に関係しています。
そのため視床出血を起こすと、視覚、聴覚、触覚などの感覚障害を中心とした症状を認め、慢性期には視床痛と呼ばれる、難治性の激しい痛みを感じることがあります。
急性期の外科治療は困難で、高齢者の寝たきりの原因となりえますが、再生医療の貢献が期待されています。
視床について
視床は脳の中心部分にあり、大脳皮質と中脳の間、脳幹のすぐ上に位置する脳内の小さな構造物です。
視床の主な機能は、運動と感覚の信号を大脳皮質に伝達することです。
また睡眠と覚醒を調節する働きもあります。まずは、この視床についてご説明します。
視床の位置
脳の中央部分には、第三脳室という液体が充満した空間があります。
頭部CTの画像で中央に見える黒い部分です。
視床は、この第三脳室を取り囲むように位置しています。
また視床の位置は脳の中心部に近い脳幹の上部でもあり、ここから神経線維が大脳皮質に向かって伸びています。
その大きさは5〜6cm程度、2つの球根状の塊に分かれていて、第3脳室の両側に対称的に配置されています。
なお視床は、後大脳動脈から分岐する細い動脈から血液が供給されています。
視床の働き
視床は、身体のさまざまな部位にある感覚の受容器から送られてくるシグナルを、大脳皮質に中継しています。
感覚に関するシグナルは、体表から感覚器、感覚神経を介して視床に伝わり、視床はそれを感覚として受け取ります。
そしてその感覚は大脳皮質に伝わり、触覚、痛覚、温度覚として解釈されます。
視覚系では、視床が網膜からの入力を視神経から受けとり、大脳の後頭葉にある一次視覚野に転送しています。
一次聴覚野との間では、聴覚情報も中継しています。視床は触覚にも重要な役割を果たしており、触覚や体位知覚に関する情報を、大脳皮質の一次体性感覚野に中継しています。
さらに視床は大脳皮質と相互に強く結合し、意識を制御しているとも考えられています。
また、睡眠と覚醒の調節に重要な役割を担っています。
したがって、視床の損傷は意識障害の原因ともなります。
視床は海馬とも接続しており、学習やエピソード記憶に関与していることもわかっています。
このように、すべての感覚に関する入力情報の98%が視床によって中継されているとも言われています。
唯一嗅覚だけは、視床を通らないで感覚情報を大脳皮質に伝えています。
なお、今回は詳しく説明していませんが、視床内部は複数の核と呼ばれる成分から構成されています。それぞれの核は担当する感覚が決まっており、感覚に関する神経回路とも密接につながっています。
視床出血について
次に、視床出血についてご説明します。
視床出血とは
視床出血とは、脳卒中の一種である脳出血が視床を中心に発症することです。
視床は、細い動脈から栄養を受けていますが、この動脈が破綻することが原因です。
ただし視床は小さい構造物ですので、出血するとすぐに周囲の構造物にも影響を与えます。
視床出血の危険因子
視床を栄養する細い動脈が、動脈硬化を起こすことが危険因子です。したがって、一般的な動脈硬化の危険因子である、
- 高血圧
- 高コレステロール血症
- 糖尿病
- 喫煙
- 肥満
- 不規則な生活習慣
- 過去の脳出血の既往歴
などが、視床出血の危険因子となります。
また、高齢者や抗血小板療法を受けている方に起こりやすいこともわかっています。
視床出血の症状
視床出血の症状は、出血によって障害を受ける視床の部分によって異なります。しかし、視床出血の一般的な症状には以下のようなものがあります。
- 感覚の喪失
- 運動や平衡感覚を保つことが困難になる
- 言語障害(特に利き手と反対側の視床が障害を受けたとき)
- 視力障害
- 意識障害
- 興味や意欲の欠如
- 注意力の低下
- 記憶障害
また視床出血に特徴的な症状に、視床痛があります。
これは慢性期になってみられる症状ですが、出血を起こした視床とは反対側の上肢や下肢に、非常に強い痛みを訴えることがあります。
痛みのほかにも灼熱感を訴えることがあり、鎮痛薬ではコントロールが難しい痛みです。
また、目の動きに異常を伴うこともあります。
両側の目が鼻の頭をみるように下方を向いて動かなくなり、対光反射が消失して瞳孔が小さく縮瞳することが特徴です。
なお視床出血の原因となる血管は細いため、出血した直後は出血量が多くなく、症状がはっきりしないこともあります。
出血量が増えて周囲の構造物に影響が及んで、初めて手足の麻痺や著しい意識障害など、はっきりとした症状を認めることがあります。
視床出血の診断
視床出血の可能性がある場合、まず頭部CTスキャンを撮影し、出血の部位とその程度を判断します。
頭部のCT画像をみることで、出血の範囲や重症度が分かりますので、その後の障害や予後を予測する参考にします。
またMRIを撮影することもあります。
ただ急性期に行うものではなく、症状が落ち着いてから視床以外の部位に出血がないか、そのほか治療を必要とする異常がないかを確認するために行うことが一般的です。
視床出血の治療
視床出血に対する治療は、限定的です。
基本的に、視床出血そのものに対する治療を行うことはありません。
それは視床が脳の中心部に存在するためにアプローチが困難であること、また視床周辺には多くの神経繊維が集まっているため、手術をすることが健常な神経繊維を傷つけてしまう恐れがあるからです。
したがって、出血を止めることや血腫を取り除くことを目的に、急性期に手術をすることはありません。
ただし、出血が視床周囲に波及して脳室内に広がると、脳室内の血液が通常の髄液の流れを阻害し、水頭症を起こすことがあります。
この水頭症は、放置することで生命の危機にさらされることがありますので、脳室に細いチューブ(カテーテル)を挿入し、脳室内の髄液を脳室外へ出すドレナージ手術を行うことはあります。
また脳出血に対する一般的な治療として、血圧の管理や呼吸・循環を維持するための処置は行います。
体内の水分や栄養状態を維持するために、輸液の管理も行います。
視床出血の回復期の治療
急性期を脱したのち回復期に入ると、一般的な脳出血後の対応として、できる限り失った機能を取り戻すためのリハビリテーションや脳出血を起こした危険因子を低減させ再出血を予防するための内服治療や生活習慣の改善などに取り組みます。
リハビリテーションは、状態次第ですが発症後1~2日以内に開始することで早期回復が期待できます。
どのようなリハビリテーションが必要かは、重症度や障害の範囲によって異なりますが、身体的障害を補うための理学療法、日常の作業をより簡単に行えるようにするための作業療法、失われた言語能力を回復するための言語療法があります。
ただ視床出血は高齢者に多いことから、リハビリを積極的に行ったとしても、出血後に寝たきりになってしまう方が少なからずおられます。
再発予防のためには、血圧の管理、禁煙、定期的な運動、体重管理が重要です。
なお視床痛で苦しむ人については、脳内の痛みの回路を遮断することを目的に、脳外科医による手術をすることがあります。
視床出血と再生医療
視床出血にも再生医療が期待できます。
治療のところでご説明しましたが、視床は手術が難しい部位であることから、急性期に出血による障害を最小限にするための手術を行うことができません。したがって、どうしても障害が残りやすい脳出血でもあると言えるでしょう。
しかし、再生医療として幹細胞を点滴することで、自立歩行ができなかったのに、歩行練習ができるようになり、悩まされていた視床痛から解放された方もおられます。
通常の診療として使用できるようになるまでには、まだ幾多のプロセスを経る必要があります。しかし視床出血後の生活に支障をきたしている方々は多くおられますので、一刻でも早い実用化が望まれるところです。
まとめ
視床出血についてご説明しました。
出血に対する有効な治療法がないことから、視床出血への対応は、ある意味現代の医療の限界を超えているのかもしれません。しかしその視床出血に効果がある再生医療は、まさに未来の治療法と言ってもよいでしょう。
今後のさらなる進歩が期待されます。
脳卒中・脊髄損傷、再生医療に関するご質問・お問い合わせは、
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ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。
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