復職支援で高次脳機能障害患者にできること

NTM_banner
復職支援で高次脳機能障害患者にできること

《 目 次 》


脳血管障害や外傷などによって脳がダメージを受けてしまうことによって、高次脳機能障害という症状があらわれてしまうことがあります。
手足の運動や普段の生活では症状が比較的目立たない高次脳機能障害を持つ患者さんの中には、お仕事中や復職の場面で、症状によって周りの人から誤解を受けたり、困難に直面してしまうことも少なくありません。
この記事では厚生労働省が平成27年度に公表した「多面的アプローチを用いた高次脳機能障害患者の 復職支援プログラムの開発に関する研究」を参考に、患者自身ができることや周りの人ができること、国や自治体が支援していることをご紹介します。

そもそも高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害は脳血管障害や外傷などによって脳がダメージを受けてしまうことによって「ちょっとしたミスをしてしまうことが増える」「物覚えが悪くなる」「集中力が亡くなる」などのそれまでなかったような症状が現れてしまう病気です。
高次脳機能障害には遂行機能障害、注意障害、記憶障害などの日常生活に支障をきたしてしまうことも少なくありません。

高次脳機能障害患者の復職に関わる因子は?

高次脳機能障害の復職のためには患者本人による因子だけでなく、患者本人の周りの人、社会から構成される因子も存在します。
高次脳機能障害患者11人を対象とした研究によると、重度の認知機能障害や社会的行動障害、障害の理解の乏しさなどが復職に対して患者さん本人の因子となりうることが示されています。
一方で、医療や福祉、企業などの連携不足や社会全体としての理解不足もまた復職への壁となってしまっているようでした。

復職のために自分でできること

高次脳機能障害患者さんご自身が復職のためにできることの第一歩として、自分自身の障害について自覚を持つということがあげられます。
参考にした研究で紹介されていた高次脳機能障害患者が専門職へ復職した事例では、例えば、患者本人が「人の名前が覚えられない」というご自身の障害について自覚して、解決方法として「メモをとる」ことを日常生活から実践されていたとのことです。
このように、まず自分自身の障害を受け入れて、自覚を持つことで、どのように障害と向き合うのかという解決策を探すことができるようになるのです。

復職支援のために会社としてできること

復職支援
高次脳機能障害患者さんが復職をするためには、本人や周りの人の配慮だけでなく、受け入れる側としての会社も大きな役割を果たします。
高次脳機能障害は見た目だけでは、障害があるとはわかりにくい特徴があり、些細なミスの積み重ねなどから、会社の中でありもしない誤解を招いてしまうことが多いことが知られています。
そのようなことが起きないように、高次脳機能障害患者さんへの理解を促すとともに、症状に合わせた具体的な対応も社内で取り組みましょう。

注意障害

注意障害の症状があると長時間のお仕事や並列して2つ以上のお仕事を同時にこなすことが難しくなってしまう場合があります。
このような時には、短時間で1つのことに集中できるようなお仕事の内容と環境を調整するなどの対応例があります。

記憶障害

記憶障害の症状があると、指示された行程を忘れてしまうというような仕事上の問題が起きることがあります。
そのため指示をするときに、あらかじめステップを明記したメモやマニュアルを作成するなどの対応例があります。

遂行機能障害

遂行機能障害は複雑な作業や多くの過程がある時に、どこから作業を始めたらいいのかわからないなどの対応例があります。

復職のために利用できる国や自治体の支援

高次脳機能障害患者さんが復職を目指すために支援する国や自治体の機関には以下のような施設があります。
有名なものではハローワーク(公共職業安定所)、地域障害者職業センター、障害者就業・生活センター、障害者職業能力開発校、就労移行支援・就労継続支援事務所などの施設があります。
これらの機関は、復職に向けた希望先や悩み事についての相談から、就労するための準備、復職のための活動、そして、復職後に職場に適応できるように支援していくなどの役割を持っています。

まとめ

この記事では高次脳機能障害を持つ患者さんご自身や受け入れる側としての企業、そして、国や自治体などの社会がどのように接することができるかをご紹介しました。
もちろん、患者さんご自身がどのように高次脳機能障害と向き合うのかは、本人にとっても、また、本人の周りの人にとっても非常に重要なことです。
ただし、患者さん本人だけでなく、それを受け入れる社会がその準備ができていなければ、復職という社会復帰の1つの形は実現することはできません。
高次脳機能障害という病気そのものについての理解を深めるだけでなく、一人ひとりに寄り添った対応ができるような社会に向かって進んでいきましょう。

<参考文献>
多面的アプローチを用いた高次脳機能障害患者の 復職支援プログラムの開発に関する研究
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/hojokin/dl/27_15050201-01.pdf
・高次脳機能障害の復職、会社として配慮すべきことは?
https://www.jaot.or.jp/ot_support/qa/detail/76/
・就労支援について知りたい
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/how06/

脳卒中・脊髄損傷、再生医療に関するご質問・お問い合わせは、
こちらのメールフォームよりお願いします。


脳卒中や脊髄損傷など再生医療に関する情報はこちらでもご覧頂けます。
ニューロテックメディカル

貴宝院 永稔【監修】福永記念診療所 部長 再生医療担当医師 ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

投稿者プロフィール

脳卒中・脊椎損傷や再生医療に関する医学的見地から情報発信するブログとなっております。
それらの情報に興味のある方、また現在もなお神経障害に苦しむ患者様やそのご家族の方々に有益となる情報をご提供して参りたいと考えております。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (0)

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

脊髄損傷への再生医療の効果

脳卒中の早期発見リスト「FAST」

ピックアップ記事

  1. 脊髄

    2020-3-2

    脊髄損傷後遺症の症状とは?主な7つの症状を医師が解説

    脊髄損傷は日本において毎年4,000~5,000人が新たに罹患し、その総患者数は約10~20万人と言…
  2. 脊髄損傷が治る可能性について

    2022-1-5

    脊髄損傷が治る可能性について

    脊髄が損傷を受けた結果、運動や感覚の機能が失われます。受傷部位や重症度によりその予後に違いがあります…
  3. 脳梗塞の再発予防の薬剤について

    2022-2-2

    脳梗塞の再発を予防するために利用される薬剤について

    脳梗塞を発症すると、元々発症しやすい危険因子を持っている事もあり、再発の危険性も高くなる事が知られて…

患者様からのよくあるご質問- YouTube

福永記念診療所・再生医療

再生医療.or.jp

再生医療専門クリニック

福永診療所

【大阪】福永記念診療所

東京銀座福永クリニック

【東京】東京銀座福永クリニック

リブラささしまメディカルクリニック

【名古屋】リブラささしま

各種お問い合わせ

脳卒中・脊髄損傷、再生医療のご質問・お問い合わせはこちらから
contact

ブログランキング

にほんブログ村 病気ブログへ

にほんブログ村 病気ブログ 脳卒中・脳梗塞へ

にほんブログ村 病気ブログ 脳・神経・脊髄の病気へ

にほんブログ村 病気ブログ リハビリテーションへ

おすすめ記事

  1. 最新技術のロボットを使ったリハビリ

    2019-2-23

    脳梗塞後遺症回復に最新技術登場!HAL®を医師が徹底解説!

    ロボットスーツが介護の分野に参入を始めました。現在、最も有名なロボットスーツと云えば、サイバーダイン…
  2. 脳出血の初期症状

    2018-8-30

    すぐに医師に相談を!脳出血の初期症状・治療法とは?

    脳出血は脳内血管が何らかの原因で破れ出血した状態をいいます。血管から溢れた血液は血腫と云う血の塊を作…
  3. くも膜下出血を発症した芸能人

    2021-12-21

    くも膜下出血を発症した芸能人の症状や後遺症を紹介

    くも膜下出血は、大きな後遺症が残ってしまう方や亡くなってしまう方もいる危険な病気ですが、周りにくも膜…
ページ上部へ戻る