脳梗塞の患者さんに看護師が用いる関連図について

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看護師が用いる関連図について

《 目 次 》


近年、問題解決におけるデザイン思考の重要性が認識されるようになりました。
例えば、デザインとイノベーションの国際的なコンサルタント会社であるIDEOの共同経営者であるトム・ケリー氏は、デザイン思考を複雑な問題をはらんでいるサービスやシステムを理解することに活用することを提案しています。
患者理解、問題認識、看護実践、評価など、看護師の仕事の多くは、デザイン思考を活用することができます。
事実看護学では、学生は「関係図」をデザインして患者の状態を理解しながら、患者が必要とするケアのレベルを決定しています。
そこで今回の記事では、看護師によるデザイン思考ともいえる関連図について、特に脳梗塞の患者さんの理解に使われる関連図を例にご紹介しましょう。

関連図とは何か?

まず関連図について、簡単にご説明します。

関連図とは患者に関する情報の関係を表した図のこと

関連図とは、患者さんに関する情報について、それぞれ関係性を示した図のことです。
関連図を描くことによって、患者さんの病気や患者さん自身の健康状態、またそれ以外の患者さんが抱える問題(看護問題)を視覚的にとらえ、容易に把握することができるようになります。
ちなみに関連図には「病態関連図」と「全体関連図」の2つがあります。
病態関連図は、対象とする患者さんが抱える病気の理解、また全体関連図は病気だけでなく、それ以外の問題も含めたトータルな患者さんの理解に用いられます。

関連図を作成する目的

なぜ看護師は関連図を作成するのでしょうか?
これはひとりの患者さんが抱える問題について、思考を整理し理解を深めるためです。
したがって、実際は患者さんに関する全ての情報を含める必要はなく、特定の問題について関係することを書いています。
また関連図を書くと、その看護師が患者さんを正しく理解しているか、その看護師の理解度を知るツールにもなりえます。
新人看護師や看護学生は、関連図を書くことで自分の勉強になりますし、先輩や教官から指導を受けるときにも使うことができます。

関連図の作り方

関係図はコンセプトマップやマインドマップに似ており、患者さんの病気の原因、器質的・機能的変化、症状、活動の低下などの要素間の関係を、あらかじめ定められた図形や矢印を用いて表現していきます。
病態関連図であれば、病気の症状がそれぞれどのような機序で発生してくるのか、その機序が病気の原因とどのように関係しているのかについて、関係性をつないで表します。
こうすることで、患者さんが訴える症状が、どのような病態が原因となっているのかを理解することが容易になります。
もちろん同じ病気であっても患者さんが訴える症状は異なることがあります。
しかし患者さんの訴える症状と機序の間には、ある程度のパターンがありますし、病態関連図が必要となる病気は限られていますので、鍵となる病気について病態関連図を作成すると、あとは応用させることができます。
実際は、患者さんの年齢や基礎疾患、治療内容や検査データなども加え、患者さん個人の病態関連図を完成させます。
全体関連図は、病態関連図に用いた情報に加え、患者さんの家族背景や入院前の生活環境、また入院したことによる身体や環境の変化などの情報を加えて作成します。
病態関連図よりも情報は増えますが、その分より包括的に患者さんや家族をより深く理解することが可能になります。

脳梗塞の患者における関連図について

脳梗塞の患者における関連図の特徴をご説明します。

脳梗塞の患者における病態関連図

脳梗塞には、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞、また心原性脳梗塞があります。
アテローム血栓性脳梗塞は、多くの場合生活習慣病を基礎にもつ人の脳内や頚部の比較的太い血管の動脈硬化が原因となっており、広い範囲の脳機能に障害が起きます。
他方ラクナ梗塞は脳内の細い血管に起こり、主に高齢者においてわかりにくい症状が徐々に進行します。
また心原性脳梗塞は、心房細動などの不整脈を持つ人の心臓内に血栓ができ、その血栓が脳内の血管を閉塞することで突然発生します。
このように同じ脳梗塞でもタイプが異なれば症状や病態、基礎疾患や治療法は多岐にわたりますので、それぞれタイプに合わせた病態関連図が必要です。
また同じアテローム血栓性脳梗塞であっても、梗塞が起きた場所や範囲によって症状は異なりますし、後遺症などの重症度も異なります。
一般的には片方の手足の麻痺、食事や飲み物の嚥下障害、感覚障害、排尿・排便障害などが主な症状です。
したがって、このような症状に伴って発生する、生活の質や日常生活動作に関する能力の低下に配慮した病態関連図を考えることになります。

脳梗塞の患者における全体関連図

全体関連図では、特に脳梗塞を発症したことで個人の身体機能だけでなく社会的・経済的自立性が失われてしまう可能性、それに伴う家族内での役割の変化などへの配慮も必要となります。
特に帰宅後の生活は、病院内で患者さんに接しているだけではなかなか見えてきません。
ですから全体関連図を作って全体像を俯瞰することで、患者さん自身も気づいていない課題を先に発見し、解決に結びつけることができるようになります。

まとめ

看護師が、患者さんの病態や全体像を理解するために用いる関連図についてご説明しました。
関係図には患者さんに対する理解を促進する、また看護師が行う一連のケアを円滑に進める、などのメリットがあります。
何よりも病気だけをみてケアをするのではなく、患者さんの抱える問題を中心に据えて全体像を把握し、表面からはみえない複雑な課題に配慮することは、デザイン思考で解決する課題としては最適といえるかもしれません。

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ニューロテックメディカル

貴宝院 永稔【監修】福永記念診療所 部長 再生医療担当医師 ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

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脳卒中・脊椎損傷や再生医療に関する医学的見地から情報発信するブログとなっております。
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