《 目 次 》
寒い日々も過ぎ去り、春の訪れを待つこの頃ですが、まだまだ三寒四温と云われて、気温差の激しい日が続きます。
そんなこの時期は脳卒中が発症し易い時期でもあります。
ここでは、特に寒い時期の脳卒中について、その予防と共にご紹介します。
早朝高血圧と脳卒中の関係
冷たい空気で交感神経が刺激されると、急に血管が収縮して、血圧を上昇させます。
そして、特に問題なのが朝の血圧が高くなる早朝高血圧なのです。
なかでも、「モーニングサージ」と呼ばれる朝の血圧が急激に上昇するタイプの方は、脳卒中の危険性が高いと云われています。
あなたが「モーニングサージ」タイプかどうかは、家庭の血圧測定である程度判ります。
その方法は、①夜、就寝前の静かな状態で収縮期血圧を測ります。
②翌朝目覚めた時、動き出す前の収縮期血圧を測ります。
③①と②を数日繰り返して、その平均値から夜と朝の血圧の差を算出します。
その値が55㎜Hg以上あると、あなたは「モーニングサージ」タイプだと思われ、脳卒中の危険性が疑われます。
起床後1~2時間が、早朝高血圧を原因とする脳卒中にとって、特に危険な時間帯になります。
早朝時の血圧上昇を抑えるために、以下の事に注意しましょう。
・起床後、すぐに慌ただしく動かず、布団の中で5分くらい手足を動かすだけでもリスク軽減になります。
・寒い場所(洗面所やトイレなど)に行く時は、ローブやカーディガンをはおったり、厚手の靴下を履くようにしましょう。
アメリカでは血管性疾患(脳卒中や心臓病など)が多いので、早朝高血圧の目安を、収縮期血圧が135㎜Hg以上、拡張期血圧85㎜Hg以上と定め、これを国際基準として、日本もこの基準をもとに早朝高血圧の診断を進めています。
尚、冬は低温が続くので血液の粘度が高まって血流が悪くなり、脳梗塞を引き起こし易くなります。
また、寒いからとアルコールを飲むことで脱水症状になり易いので、就寝前後には、水分を摂るようにしましょう。
脳出血が原因で高まる冬の突然死!
寒暖の差が大きい冬、お風呂場と脱衣所の気温差によって血圧が上昇、特に高血圧の男性は注意するのが脳出血です。
近年、高齢者に皮質下出血が増えていると云われています。
脳出血は脳の深部に張り巡らされている、直系1㎜以下の穿通枝と呼ばれる細い動脈が破れて、脳内に出血する病気です。
高血圧は脳出血の最大の危険因子と云われます。
「2015年脳卒中データバンク」によると、脳出血17,700例の内、原因が高血圧であったものが82%を占めています。
働き盛りの50代から定年を過ぎた70代までの男性に多く、高血圧によって細い動脈の硬化が進んで、破け易くなっているのが原因でした。脳出血発症の初期症状としては、片麻痺が53%と最も多く、脳の出血が起きた反対側の手足に症状が現れます。
その他の症状としては、意識障害(意識が遠のく、急に意識がなくなる)や、構音障害(言葉が不明瞭になる)が起こることもあります。
出血した部位別
① 最も多いのが、脳中央の被殻に起こる外側型で、脳出血全体の約40%。50歳未満の比較的若い方に多く見受けられるのが特徴です。
② 次が大脳と中脳をつなぐ間脳の一部の視床に起こる内側型で、脳出血全体の約30%。
50歳以上の方に多く見受けられます。
症状としては、感覚障害(温度や物に触れた感覚が鈍くなる)や、目の異変(眼球が内側に寄ったり、瞳孔が小さくなる)を伴う場合があります。
③ 小脳出血は後頭部の小脳で起こり、慢性的高血圧の方に多く見受けられます。
症状としては、歩行障害(回転性のめまい、立って歩けない)や、顔面神経麻痺などが現れます。
④ 重症化が懸念されるのは脳幹出血で、脳出血全体の約10%を占めます。
脳幹は呼吸などの生命維持に関わる機能を有するので、出血量が多ければ死に至ることもあり、たとえ一命を取り留めても重い後遺症が残る場合があります。めまいの症状を起こすこともあります。
⑤ 近年の高齢化に伴い、皮質下出血が注目されてきました。その原因は脳アミロイドアンギオパチー(CAA)と呼ばれる病態(脳血管にアミロイドβたんぱくという物質が沈着して血管壁が厚くなる)で、最後には血管壁が脆くなって破れてしまいます。
高齢者ほど発症し易く、男性より女性に多く見受けられるのが特徴です。
アルツハイマー型認知症との合併も多いようです。
※脳出血の症状は脳梗塞と共通することが多いので、どちらを発症しているかの判別が難しい場合があるので、最終的診断は病院での画像検査によります。
血栓症は冬場が特に注意!
冬場は心筋梗塞や脳梗塞などの「血栓症」を発症する方が増えます。
そういえば、毎週楽しみに拝見していたドラマ、「バイプレイヤーズ」の大杉漣さんが急性心不全で2月20日に急逝されました。
同世代の一人として、他人ごとでは済まされない思いでいっぱいです。
たぶん、冬場の血栓が彼の命を奪って行ったのではと、残念でなりません。
血栓とは
血栓とは、血管内の血液が何らかの原因で固まって出来る血の塊を云います。
普段、血液は「凝固」(血液を固まらせる性質)と「線溶」(溶かす性質)のバランスが保たれて、血管内をスムーズに流れています。
ところが、血管が傷ついたり、破れたりして出血すると、止血の為に「凝固」の性質が活発に働きだします。
その結果、傷ついた血管を栓で塞ぐように血の塊が出来、これが「血栓」と呼ばれます。
【ウィルヒョウの3要素】
ドイツの病理学者ウィルヒョウは、血栓が出来る背景として3つの要素を挙げています。
① 血管壁の最も内側、血液に接している「血管内膜の状態」の変化 ⇒動脈硬化。
②「血液成分」の変化 ⇒脱水。
③「血流」の変化 ⇒血流の停滞や乱れ(血液のドロドロ状態)
これらの要素が重なって、血栓が出来易くなります。
血栓症の3つのタイプ
\ | ① 生活習慣病 (高血圧や高血糖、脂質異常など)によるもの |
② 高齢者に起こり易いもの | ③ 病気・年齢に関係なく起こるもの |
---|---|---|---|
特徴 | 動脈硬化が原因で、心筋梗塞や脳梗塞を起こす。 | 60歳以降の10%以上で発生する心房細動のせいで、血栓が出来易くなる。 心原性脳塞栓症。 |
同じ姿勢のままで動かない。水分不足で血液がドロドロ状態。 静脈系で起こり易い。 ロングフライト(エコノミークラス)症候群 |
予防策 |
・肥満や高血圧、脂質異常などの改善 ・適度の運動や栄養バランスのとれた食事 ※冬場は特に寒暖差、脱水を避ける |
・定期的な心電図検査で、心房細動の有無を確認 ・心房細動が見つかった場合は、抗凝固剤などで血栓症を予防 |
・こまめに足を動かして、水分を摂取する |
生活習慣病のある方は、血管内膜を覆う内皮細胞にコレステロールなどの脂肪物質が溜まり易く、お粥状の粥腫(じゅくしゅ=アテローム)が出来ます。
このアテロームが肥厚して、プラークになります。このプラークが何らかのきっかけで破れると、プラークの成分を異物とみなして、凝固作用が働きます。
それで血栓が作られると、血管の内腔が塞がれて、血流が途絶えて末端組織に酸素や栄養素が送られず壊死して、「梗塞」と呼ばれる状態になります。
- 心筋梗塞・・・心臓に血液を送る冠状動脈で起こる梗塞
- 脳梗塞・・・脳に血液を送る動脈で起こる梗塞
- 上腸間膜動脈閉塞症・・・小大腸など消化器官に血液を送る上腸間膜動脈が閉塞
60代以上の高齢者に起こり易い血栓症の代表、心原性脳塞栓症は、60歳以降の10%以上の方に発生すると云われる心房細動(心房がけいれんのように小刻みに動く不整脈の一種)のせいで、血流が乱れて血液がスムーズに心室に送られず、血栓が出来易くなります。
心房から心室、そして脳へと血栓が移り、脳の動脈を詰まらせて脳塞栓の状態から脳梗塞となります。
心房で作られた血栓は、血管内のものより大きくなり易いので、アテローム性動脈硬化が要因の脳梗塞より、こちらの方が重症化し易くなります。
病的背景や年齢に関係しない血栓症は、エコノミークラス症候群のように静脈系に起こり易いです。
エコノミークラス症候群は、下肢の深部静脈(足の筋肉より内側にある太い血管)に血栓が出来る深部静脈血栓症と、その血栓が飛んで肺の動脈を塞ぐ肺塞栓症を併せもった症状です。
同じ姿勢を続けて動かなかったり、水分不足で血液が粘っこい状態になり下肢の血流が悪化して、深部静脈に血栓が出来てしまうのです。
尚、他に腹腔鏡下手術を受けた後などに起こることもあります。
座りっぱなしは死を招く!
エコノミークラス症候群の怖さは判って頂けたと思いますが、「いやー、私は海外旅行もしないし、そんなに長く飛行機に乗ることもないから、関係ないねー」と、思っているあなた、「でも、テレビやパソコンの前で長く座っていませんか、それも危険ですよ!」というお話です。
もうご存じでしょうが、エコノミークラス症候群は、深部静脈血栓症という「長時間座ったままの姿勢を続けた結果、脚の血流が悪くなって静脈の中に血栓が出来る症状」と、肺塞栓症という「立ち上がって歩きだした拍子に、静脈で出来ていた血栓が血流に乗って運ばれて、肺動脈を塞ぐ症状」を合わせた概念を云います。
肺塞栓症を起こすと、突然倒れて最悪、死に至ります。
大阪大学の研究チームがテレビの前に長時間座っていると、肺塞栓症で死亡するリスクが高まると云う研究発表をしました。
1988年から1990年の間に40~79歳の男女110,585人を選んで、19.2年間に亘って追跡調査しました。
テレビ視聴時間/1日 | 2.5H未満 | 2.5~4.9H | 5.0H以上 |
---|---|---|---|
人数 | 678,199人 | 562,449人 | 157,922人 |
肺塞栓症で死亡人数 | 19人 | 27人 | 13人 |
10万人当たりでは | 2.8人 | 4.8人 | 8.2人 |
参加者の年齢・性別、生活習慣、健康状態を考慮しても、テレビ視聴時間が長いほど、肺塞栓症による死亡のリスクが高まり、テレビの視聴時間が2時間延びるごとに、肺塞栓症による死亡のリスクが1.4倍になると云う結果が出ています。
仕事や趣味でパソコンの前に座り続けても、同じようなリスク上昇の可能性があります。
テレビを視聴中ならCMや番宣の間、仕事中なら適度に休憩を挟んで体を動かせば、肺塞栓症は発生し難くなります。
30歳過ぎたら地中海風の食事スタイルが一番!
40歳以上にとって、健康の最大のリスクは「肥満」ですよね。
メタボリックシンドロームの状態では、糖尿病や脂質異常症などいろんな生活習慣病を発症させ、脳卒中や心筋梗塞を引き起こします。
でも、地中海風の食事スタイルは高血圧、高血糖、脂質異常を起こし難いのでメタボになり難く、死亡率を低く抑えることが出来ます。
イタリアで1995~2008年に実施した延べ157万人対象の研究によると、地中海風食生活を心掛けると、生活習慣病を含めたいろんな病気にかかって死亡するリスクが明らかに減ることが判りました。
例えば、心血管疾患は9%低下、がんの罹患率と死亡率も6%低下することが判りました。
和風の食事スタイルは野菜や豆、魚中心と、地中海風に似ているので、それに3つの食品「野菜とフルーツ」「ヨーグルト」「ナッツ」を加えるだけでOKです。
野菜とフルーツを1日5皿(野菜77g、フルーツ80gで1皿)食べる習慣の方はほとんど食べない方に比べて生活習慣病にかかり難く、死亡リスクが26%も低下したとの驚きの報告があります。
ビタミンやミネラル補給には有効なサプリメントですが、野菜やフルーツの摂取で得られる健康増進効果は見られませんでした。
まずは1日3皿から始めて、野菜やフルーツをたくさん摂り、それらに含まれるさまざまなファイトケミカルの総合力に期待しましょう。※ファイトケミカルは抗酸化力、免疫力のアップなど、健康維持や改善に役立つと期待される化学物質です。
ヨーグルトの健康効果メカニズムはまだ研究途中ですが、腸内細菌に良い効果を及ぼして肥満を抑えると考えられています。
ヨーグルトを食べるとカルシウムの摂取量が増え、脂肪分解が促進されたり、脂肪吸収が抑えられたりします。
人間の腸に棲みつく、乳酸菌やビフィズス菌のような善玉菌と、大腸菌や他の悪玉菌の割合が変化することで、免疫機能や健康状態が変わってきます。人によってもその種類や分布が異なっているので、あなたに合ったヨーグルトを選ぶかどうかで、効果に差が出てきます。
30歳過ぎたら一握りのナッツで動脈硬化予防!
30歳を過ぎると、だんだん代謝が下がり、20代と同じ生活を続けているのに、なぜか太り易くなったりなど、30代は健康の曲がり角なのです。
50,60代になってからの病気のリスクを減らすために、30,40代のうちに身につけておくと良い食生活の習慣をご紹介します。
地中海風食事でよく食べるナッツ(アーモンド、クルミ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツなど)が、死亡リスクを減らすとアメリカで証明されています。
ハーバード大学の研究者によると、10万人以上のアメリカ人男女を対象に20年以上に亘って追跡調査した結果、1日28g以上のナッツ(一握り程度の量)を週2回以上食べている人は、全く食べなかった人より死亡リスクが約15%も減少することが判りました。
死因別解析によれば、心臓病、がん、呼吸器疾患の死亡リスクが明らかに低下しています。結果が即、日本人に当てはまるかは判りませんが、ナッツの健康効果は間違いないでしょう。
ナッツには、ビタミン、ミネラルだけでなく野菜やフルーツと同じくファイトケミカルが含まれています。
ナッツに含まれる脂肪分は肉などに含まれる飽和脂肪酸と異なり、不飽和脂肪酸と云って、健康効果が高く、常温で固まり難く体内では液体であるのが特徴で、血中の中性脂肪やコレステロール値を調整する働きがあります。
さあ、ナッツを食べて動脈硬化を予防しましょう。
いかがでしたか?
冬の脳卒中に注意して、食生活から改善しましょうという話でした。
是非、参考にして見てください。
ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。