脳血管性認知症とは?予防・改善方法を医師が徹底解説!

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《 目 次 》


認知症にもいろんな種類があり、原因も様々ですが、異常なたんぱく質の産生や蓄積により脳細胞が死滅して、障害が起こるアルツハイマー型やレビー小体型、そして脳の血管の病気によって起こる脳血管性などがありますが、その種類によって原因や症状、改善策も異なります。
ここでは特に脳血管性認知症について、取り上げてみました。

脳血管性認知症とは

脳血管性認知症は、認知症の20~30%を占める病気で、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などによって引き起こされます。

原因

脳血管性認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで二番目に患者さんが多いとされる認知症です。
脳の血管が病気によって、血管が詰まったり出血することで、酸素や栄養が脳細胞に送られなくなって、細胞が壊れ、本来、担っていた機能を失って認知症になります。
血管の病気を引き起こす原因の動脈硬化の危険因子は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心疾患、喫煙など、生活習慣によって引き起こされます。
性別では、女性より男性の方が多く発症していると云われています。

進行

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を起こした後、認知症状が急に起こり、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進行します。
脳梗塞などの場合は、発作が起こるたびに症状も進むので、発作を防ぐためには予防が必要です。
無症候性脳梗塞を頻繁に起こす場合は、次第に認知症状が起こる場合もあります。
症状は障害を起こした脳の部位によって異なります。
アルツハイマー型と診断された高齢者の中には、血管障害を起こす患者さんも多く、脳血管性認知症の症状を併発した場合は混合型認知症と云います。

症状の特徴

医者と患者の家族

まだら認知症

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって、細胞が壊れた部位は機能が低下してしまいます。
物忘れや計算が出来なくなっても、判断力や培った専門知識などは維持されている場合があります。
これは正常な部位の能力が機能しているからです。
このように障害された能力と残っている能力がある状態を「まだら認知症」と云います。
意欲がなくボーっとして何も出来ず、抑うつ状態が見られる時もあれば、意識もはっきりしていて、出来ないと思っていたことが出来ることもあります。
このような状態が1日の中でも変化するなど、症状には波があることを理解しておいてください。

感情失禁

感情がコントロール出来ずに、すぐ泣いたり怒ったりします。
「天気が良くて、気持ちがいいね」と聞いただけなのに、泣いてしまったり、笑顔が見られて機嫌がよさそうなのに、声をかけると急に怒り出すことも珍しくありません。
落ち着いていても、急に悪化するなどの変動が激しいのが特徴です。

その他のいろんな症状

運動麻痺や感覚麻痺、言語障害、歩行障害、排尿障害、嚥下障害、夜間せん妄(※)など、他の認知症と大きな違いはありませんが、脳の障害部位により、出現症状は異なります。
具体的には、物が何か分かっているのに、言葉に出せない、服の前後ろや上下が認識出来ずに逆さまに着たりなどの症状が現れます。
麻痺は無いのに、歯ブラシやお箸の使い方が分からない、手元で作業していても、近くの声が気になって集中出来ないなどの症状も見受けられます。

夜間せん妄

病気などで体調が悪化したり、手術後の薬が体質に合わなかった際に発症し易い軽度のパニック状態で、幻覚や幻聴、妄想、見当識の混乱など、「寝ぼけているの?」と思えるような症状が現れます。
他に認知機能の低下や精神運動の興奮、錯乱などを伴うこともあり、それが夕方から夜間の刺激の少ない時間帯に起こります。

症状を抑えるには、脳血管障害の再発予防に取り組むことが必要です。
糖尿病、高血圧、心疾患、脂質代謝異常などの治療や生活習慣の改善が重要になってきます。
リハビリテーションで麻痺の改善を図ることも、QOL(生活の質)の向上には大事な治療になります。

脳血管性認知症の方への対応の仕方

① 認知症だと本人が理解出来ている場合の配慮

初期段階では自分が認知症であることを認識している場合もあります。
「これくらい出来ないの?」「なぜわからないの?」などといった言葉を投げかけられても、本人ではどうすることも出来ないのです。
出来ないことが増えて認知症を自覚することは、本人にとっては大変辛いことですから、その辺を配慮した言動を心掛けてください。

② 1日にも波がある

出来る時と出来ない時の波があることを理解して、その方の自立度に合った援助をしてください。

③ 感情の変化のポイントを掴む

感情失禁が見られるので、落ち着いているように見えても、急に悪化することがありますが、本人にとっては理由があることも多くあります。
例えば、調子がよさそうに見えたから、今のうちにとトイレに誘ったら、急に怒り出した場合などは、トイレへの拒否ではなく、気分が良い時に声をかけられて邪魔されたと感じたのかもしれません。
本人の感情の変化のポイントを掴むことで、介護もし易くなるでしょう。

④ 患者さんとよく話し合いましょう

発症後、徐々に身体機能が低下し、寝たきりの状態になる場合もあります。
本人の意思確認が出来るうちに、在宅介護や施設で過ごす場所の選定、呼吸補助や経管栄養、心肺蘇生などの治療の選択などについて、前もって話し合い、患者さんの意志を尊重してください。

⑤ 介護サービスの利用

脳血管障害による麻痺や障害で、身体機能が低下する場合があります。
歩行困難や排尿障害による尿失禁、嚥下障害など、介護側の負担も大きくなってきます。
ご主人の介護では奥さんや娘さんが介護するケースも多いのですが、体の大きな男性の介護では、介護者が過労から倒れるケースも少なくありません。
そうなる前に、地域包括支援センターに相談して、ケアマネジャーの選定や介護サービスなどの利用を検討して負担を少なくするのが、介護を長続きさせるコツになります。

脳血管性認知症の予防

生活習慣の見直し

一番の予防策は、認知症の元である脳梗塞などの疾患にならないよう注意することです。
脳梗塞や脳出血などの原因は、生活習慣病によるものが多いと云われています。
高血圧や脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病は、過食や運動不足、ストレスなどから起こるのですから、生活習慣の見直しが大切です。
バランスの良い食事を心掛け、適度な運動をしましょう。
血糖値が高い方は、糖尿病にならないよう定期的に受診をしましょう。

症状軽減の方法

リハビリテーション

① リハビリテーション

脳を活性化させるために、リハビリテーションを行って、症状の進行を緩やかにすることが出来ます。
音楽を聴く、一緒に歌う、絵本を読むなど、発症前に興味や関心があったことを活かして、リハビリテーションに取り入れると良いでしょう。
楽しみながらのリハビリテーションは脳を活性化させることでしょう。

【リハビリの効能】

認知症では、脳の神経細胞が壊れることで記憶障害などが起こりますが、一度壊れた神経細胞は元に戻らないので、その細胞が担っていた機能を取り戻すのは大変です。
だから、一般的な認知症の治療とは、残っている機能を維持しながら病状の進行を遅らせて、日常の症状を軽減させることが主な目的となります。
他方、本人の性格や環境が加わって起こる幻覚や妄想、徘徊などについてはリハビリで改善が望めます。
と云うのは、脳の神経細胞は全部が活動している訳ではなく、眠っているものも多くあるので、五感を使ったリハビリで脳に刺激を与えることで、細胞を目覚めさせ、破壊された神経細胞の代わりに活動出来る可能性があります。

【効果的リハビリのポイント】

「体を動かす」「心の満足」「考える」の3つを出来るだけ同時に取り入れるのがポイントです。
考えながら適度に運動を行うことで脳に刺激を与えて、心が満足すると云うイメージです。
例えば料理なら、お湯を沸かしながら野菜を切るなど、段取りを考えながら多くの作業を同時に行うことが多いので、脳の活性化が期待出来ます。
洗濯や掃除などの家事が出来るようになると、家族から認められて、自分が必要とされていると云う気持ちになり、心の満足も得られ易くなります。
その人の過去の仕事や趣味などを活かすことも効果的です。
仕事や趣味で繰り返してきた動作は、認知症になっても覚えていることが多いので、失敗が少なく、その人の能力が発揮出来ます。
複雑な動作が難しい時は、掃除や階段の上り下りなどの簡単に出来ることから始めると良いです。
目標は「畑仕事の再開」や「着替えが出来る」など、その人に合った具体的内容を立てれば、達成感が高まります。
寝たきり状態に病状が進んだ場合でも、先ずは座った生活が出来ることを目標にしましょう。
座れば体のバランス機能や心肺機能が高まり、継続することで体力もついてきます。

【リハビリでの注意点】

無理強いでストレスを与えないこと、常に本人を尊重することが大切です。
記憶をなくして介護を受ける身になった認知症の方にもプライドがあります。
なるべく本人のやりたいことを優先させて、嫌がるようなら別のリハビリを検討してみましょう。

【リハビリの種類】
❶ 音楽療法

食事や介護の場面で音楽を聴く「受動的音楽療法」と、複数人で合唱やカラオケ大会をしたり、音楽に合わせて体操や簡単な運動をしたりする「能動的音楽療法」による、リラックス効果で症状改善を目指します。
どちらの療法でも採用される音楽は、気持ちが落ち着くクラシックや当人にとって懐かしい歌謡曲や演歌、童謡、唱歌などが良いでしょう。
脳の血流が増して、脳が働くためのエネルギー源の糖が運ばれる量が増えます。
それで脳が活性化し、徘徊などの認知症の症状の改善が望めます。

❷ 回想法

新しいことは忘れるが、昔のことは覚えていることが多い認知症の特徴を踏まえて、よく使っていた生活品やおもちゃなどを手に取ってもらい、楽しかった記憶を引き出し心の安定を図ります。
昔のことを思い出そうとしたり、他の人と「話す」「聞く」と云ったコミュニケーションを図ることは、自然に記憶力や集中力などが使われるので、脳が活性化されます。
認知症の症状の進行を遅らせるだけでなく、蘇った思い出が楽しいものであるほど、心理的安定効果があり、過去を振り返って、失った自信を取り戻すことも期待出来ます。
1対1で行う「個人回想法」と、複数人で行う「グループ回想法」がありますが、どちらにも大切なのは、記憶を引き出す「きっかけ」を用意することです。
キーワードとしては、「ふるさと」「子供時代」「学生時代」「交友関係」「仕事」「趣味」「出会い」「結婚」「出産」「子育て」「定年」「孫の誕生」「これから」などがあります。
記憶を引き出すものとして、子どもの頃遊んだおもちゃや昔の写真、若いころ流行ったCDや映画のポスターなども効果的でしょう。
効果的な回想法のポイントは…

  1. 答えやすい具体的質問をする
  2. 無理に聞き出さない
  3. 事実と異なることも、訂正しない

などで、記憶力や集中力などを使って、脳を活性化させることが目的であることを心掛けましょう。

❸ 動物介在療法(アニマルセラピー)

動物に癒されたり、「世話をしてあげたい」と云う優しい気持ちが生まれる、動物とのふれあいを通して精神的な健康をもたらす治療法です。
ペットとして動物を飼ったり、子ども代わりに動物をかわいがるなどして、そのしぐさや行動から愛らしさや癒しを感じて、落ち着きや主体性を取り戻すことに効果があるとされています。
知症にかかると、表情が乏しく、無口になって自発性が無くなる傾向にあります。
これは今まで人の世話してきた身が、逆に世話される立場となって、自信を無くして落ち込む心理が働くと考えられています。
でも、自分より小さく、世話をしてあげないといけないと感じさせる動物と触れ合うことで、自信を取り戻すことが出来るのです。
これにより何かをしてあげたいと云う人間らしい感情を取り戻し、表情が豊かになって言葉も増えます。
使命感や世話をすると云う役割を意識することで、脳機能の改善も期待出来るのです。

❹ 美術療法

絵を鑑賞したり、対象物に触れたり、食べ物を実際に食べたりなど、五感を使うことで脳の活性化を図ります。

❺ 作業療法

日常生活の流れの中で出来る役割の作業としては、掃除や料理、洗濯、整理整頓などの家事、買い物などの外出、食事、入浴、排せつなどがあります。
集団で行うとより効果が増すものとしては、体操、編み物や陶芸、折り紙などの手工芸、書道、塗り絵、囲碁・将棋、映画・音楽鑑賞、ゲートボール、茶話会などでの他者とのコミュニケーションなどがあります。
特に手先を動かすことで、脳の運動野の広範囲を活性化させることが出来、自尊心を回復して、自身の存在意義を見出し易くなります。
作業療法を行うに当たっては、発症前の生活や発症後の変化、人となり、得手不得手などを考慮したプログラムの作成が望まれます。

❻ その他

園芸療法やアロマ療法、リアリティ・オリエンテーション(※)、レクリエーションなどがあります。
特に昼夜逆転の不規則な生活を送っている方には、散歩やラジオ体操、ストレッチなどの軽い運動をすることで、夜に眠れるようになって、徘徊や抑うつ、夜間せん妄などの改善が期待出来ます。
※リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練):言語障害のない初期段階の認知症に有効とされます。

昔の「長期記憶」はあるが、今日の昼食などの「短期記憶」は忘れがちな方が対象になります。
24時間リアリティ・オリエンテーションは、日常会話やコミュニケーションの中で行います。例えば、着替えなどをサポートしながら、「今日は3月3日だから、ひな祭りですね」と云った会話で、見当識を補う手掛かりを与えます。
また、クラスルームリアリティ・オリエンテーションでは小グループに分かれて、進行役のスタッフのもと、各々の基本的情報の名前や日時、場所などを提供する方法です。 

② 治療の継続

元々の病気である脳血管障害の治療は続けましょう。
一度梗塞が起こると、その後も小さな梗塞が起こり易く、再発の恐れがあります。
小さな梗塞でも、認知症を悪化させることがあるので、定期的に受信しましょう。
また、日々の変化の中で何かを気づいた時はすぐに受診してください。
いつもより反応が鈍いだけでも、梗塞が起こっている場合もあります。

今回は脳梗塞から発症する、「脳血管性認知症」についてのご紹介でした。
損傷した脳細胞は復活出来なくても、まだ使われていない脳細胞が失われた機能を補完出来るように、いろんなリハビリテーションの方法を知っておきましょう。


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ニューロテックメディカル

       貴宝院 永稔【監修】脳梗塞・脊髄損傷クリニック 銀座院 院長 再生医療担当医師
ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

投稿者プロフィール

脳卒中・脊椎損傷や再生医療に関する医学的見地から情報発信するブログとなっております。
それらの情報に興味のある方、また現在もなお神経障害に苦しむ患者様やそのご家族の方々に有益となる情報をご提供して参りたいと考えております。

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