中心性脊髄損傷の原因や症状と予後について

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中心性脊髄損傷の原因や症状と予後について

《 目 次 》


中心性脊髄損傷は、頚部への外傷により脊髄の中心部が障害を受けることで生じる神経障害です。
頚髄は内側が上肢、外側が下肢に向かう神経が走行するため、中心部が損傷を受けると腕がより強い影響を受け、麻痺や感覚障害などを認めます。
若い人に発症すると比較的短期間で回復しますが、高齢者の予後はよくありません。

中心性脊髄損傷の原因

中心性脊髄損傷は、交通事故などで頭を後ろに倒すように首を無理に伸ばすことが原因となることが一般的です。
別名「中心性脊髄症候群」とも呼ばれ、首の骨(頚椎)のなかを通る神経の束である脊髄(頚髄)の不完全な外傷です。
勢いよく顎を地面や壁にぶつけることを契機に、急に首が後ろに反り返り、その影響で頚髄の中心部が損傷を受けます。
スポーツ選手に発生することが多く、最近ではJリーグのトライアウトを受けていたゴールキーパーの選手に発症したことが報道されていました。

そのほかにも、50歳以上の方にも多く見られます。
首の骨に元々関節炎などに伴う変化がある人に起こりやすいと言われています。
炎症に伴う変化がある状況では、脊髄が通る管が狭くなるため、骨によって脊髄が圧迫されることがあるからです。
脊髄が強く圧迫されると、脊髄の中心部の損傷、出血、腫れが生じます。
また脊髄は外側には多くの血管が走行しているため、神経繊維への酸素や栄養の供給が容易にできますが、中心部は血流が乏しいため、特に損傷を受けやすく、かつ損傷後の回復も困難になってしまいます。
脊髄は、腕の動きを制御する神経が中央に、脚に向かう神経がより外側に来るように構成されているため、中心部が損傷を受けると脚よりも腕が影響を受けます。
そのため中心性脊髄損傷を発症すると、脚よりも腕に症状が強くみられます。

中心性脊髄損傷の症状

中心性脊髄損傷を発症した患者さんは、通常上肢(腕)の麻痺と、それよりも軽い下肢(脚)の麻痺を訴えます。
上肢の麻痺が生じると字を書くことやボタンをとめること、さらに下肢の麻痺があると歩くことなど、日常的な作業が困難になることがあります。
また感覚も障害されるため、痺れが生じたり、ときに強い痛みを感じたりすることもあります。
さらに排尿や排便が困難になることもあります。
事故や怪我の後に上記のような症状が現れた場合は、大至急医療機関を受診する必要があります。

中心性脊髄損傷の診断

中心性脊髄損傷が疑われる患者さんには、症状が発生した出来事を中心に病歴を聴取して診察を行います。
特に神経機能を評価する診察は重要です。
診察結果をもとに、画像検査の実施を判断します。
画像検査には、頚椎の磁気共鳴画像(MRI)検査、CTスキャン、頚椎X線単純撮影(屈曲・伸展像を含む)などが含まれます。

磁気共鳴画像(MRI)検査

強力な磁石とコンピュータ技術を用いて身体構造の3次元画像を作成する診断検査で、骨、椎間板、血腫による脊髄の圧迫など、かなり具体的に評価することが可能となる検査です。
MRIでは、他の画像検査では見逃される可能性のある靭帯や軟部組織の損傷も確認できます。

CTスキャン

コンピュータを利用したX線画像診断装置で、特に骨の細部を鮮明に映し出すことができます。
また脊柱管の形状や大きさ、内容物、周囲の構造物も確認できます。
通常はMRIの前に行われ、MRIと組み合わせることで、治療方針を決定するために必要となる情報を、より確実に得ることができます。

頚椎X線単純撮影

脊椎のX線検査では、骨折や脱臼のほか、関節炎の程度や変化の度合いなどを確認することができます。
屈曲・伸展像は、脊椎の安定性の評価に役立ちます。
MRIとCTスキャンの画像はどちらも静止画像であり、動きを評価するものではありませんが、屈曲・伸展像は、頚椎の動きに関連した評価を行うことを可能にします。

中心性脊髄損傷の治療法

中心性脊髄損傷の治療法について、今回は簡単に紹介するに留めます。
頚椎が神経を圧迫し、神経機能を障害していることが明らかな場合、外科的に圧迫を解除することがあります。
ただし多くの場合は手術を必要とせず、頚椎カラーで頚部を固定すること、リハビリなどを用いて神経機能の回復を促します。

中心性脊髄損傷の予後

脊髄の腫れが原因となって神経障害が発生している場合、発生初期に生じる麻痺は比較的早く回復することがあります。
通常はまず足の機能が回復し、次に膀胱のコントロール、そして腕の機能が回復します。
手の動きや指先の器用さは最後に回復します。
脊髄内での出血が原因となっている場合は、回復の可能性は低く、予後もあまりよくありません。
若い患者さんの中心性脊髄損傷の予後は、高齢の患者さんよりも良好です。
短期間で若年層の患者さんの大半が回復し、問題なく日常生活を送る能力を取り戻します。
しかし高齢の患者さんでは、予後はそれほど良好ではありません。

まとめ

中心性脊髄損傷の原因、症状、予後を中心にご説明しました。
元気に長生きする人が増える一方で、かつてに比べて年配の方の身体活動がはるかに活発になっていることから、今後高齢者を中心に中心性脊髄損傷の患者さんの数は増加すると予想されています。
予防するためには、足腰をしっかりと鍛えておくことが大切です。
ぜひ日常生活のなかで、意識して運動することをお勧めいたします。

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       貴宝院 永稔【監修】脳梗塞・脊髄損傷クリニック 銀座院 院長 再生医療担当医師
ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

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