脊髄損傷後遺症の症状とは?主な7つの症状を医師が解説

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脊髄

《 目 次 》


脊髄損傷は日本において毎年4,000~5,000人があらたに罹患し、その総患者数は約10~20万人と言われています。
そして、その原因は交通事故や怪我によるものが多くを占めています。
そのため老若男女問わず、誰にいつ起こってもおかしくはないのです。
日常生活における身近な疾患ではありませんが、日常生活の延長線上に誰にでも起こりうる「脊髄損傷とその後遺症」についてお伝えします。

脊髄と脊髄神経とは?

脊髄の模型
脊髄は、延髄の延長である中枢神経のことを言います。
それは、太さ約1cm、長さ約40㎝の円柱状の器官であり、脊柱管という器官の中に保護されています。
分かりやすく言うと脳を出発して背骨の中を通って伸びている太い神経のことです。
そして、脊髄は、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄に区分されています。
脊髄神経は、脊髄につながる末梢神経のことです。
脊髄神経も脊髄と同じように区分されていて、頚神経(8対)、胸神経(12対)、腰神経(5対)、仙骨神経(5対)、尾骨神経(1対)の合計31対が脳以外の全身に伸びているのです。

「大脳⇔身体」を往復する重要な伝達経路

脊髄と脊髄神経には、大脳からの指令を身体の各部に伝え(運動情報)、身体の各部が感じたこと(知覚情報)を大脳に伝える働きがあります。
つまり、身体の中の情報伝達経路は「大脳⇔脊髄⇔脊髄神経⇔身体の各部」となります。
脊髄神経は神経の束のようなものであり、その中には内臓や血管の運動などをつかさどる自律神経が含まれています。
自律神経には交感神経と副交感神経と呼ばれるものがあり、身体の機能を調整しているのです。

反射運動(無意識な動き)をつかさどる

脊髄は反射運動もつかさどっています。
これを脊髄反射といいます。
反射とは無意識に、身体が感じた知覚に対して筋肉を収縮させる(動かす)ことです。
たとえば、膝をハンマーでたたくと足先が跳ね上がる動きや、熱いものに触れたときに手を引っ込めるような動きのことです。

脊髄損傷とは、どのような状態のことをいうのでしょうか?

脊髄損傷とは、脊椎(骨)が脱臼や骨折などによって損傷を受け、脊椎の中で保護されている脊髄が損傷して、脳⇔身体の各部の伝達経路が壊れ、運動麻痺や知覚障害などが出現する状態のことをいいます。

脊髄損傷における損害領域と影響

脊髄損傷における損害領域と影響

どうして脊髄損傷になるのでしょうか?

脊髄損傷の原因は、1990~1992年の日本脊髄障害医学会の調査によると、交通事故(44%)が最も多く、次いで高所からの転落(29%)、転倒(13%)、物体による打撲や下敷き(6%)、スポーツ事故(5%)などです。
2002年の調査では交通事故が減り、転倒が13%から19%に増えています。
その原因としては高齢化社会に伴い、高齢者の転倒による脊髄損傷が増えているからだと考えられます。

脊髄損傷の検査にはどのようなものがありますか?

神経学的検査、画像検査、筋電図、徒手筋テスト、皮膚知覚テストなどが行われます。
神経学的検査とは、意識レベルや瞳孔の大きさ、光に対する反射などを調べる検査です。
画像検査には、X線撮影、CT、MRIのほか、脊髄造影検査があります。
これは、脊髄のくも膜下腔に造影剤を注入し、脊髄や神経根の状態を見る検査です。
筋電図とは、筋肉に電気のような刺激を加えて、筋肉が収縮する状態を調べる検査です。
徒手筋テストとは、患者に前腕を屈曲するなどの姿勢をしてもらい、そこに力を加えたりすることで、それに抵抗する力から運動麻痺の有無や麻痺の程度がどれくらいなのかを調べる検査です。

脊髄損傷の治療はどのように行われるのでしょうか?

リハビリ損傷を受けた脊髄はもとに戻らないため、急性期における外科的な治療とリハビリテーションがおもな治療です。
損傷直後の急性期には呼吸障害と排尿障害が多く起こります。
そのため、補助呼吸による呼吸管理と導尿などの尿路管理に重点が置かれます。
また、脊髄への圧迫を取り除くために手術などで脊椎の骨折や脱臼の治療を行います。
しかし、損傷直後に外科的な治療を行っても、脊髄損傷はさまざまな後遺症を残します。
そのため、回復期には残っている機能を活かして、ADLが自立し、そして社会復帰できることを目指したリハビリテーションを行うことになるのです。
*ADL(Activities of Daily Living):日常生活を送るために必要な動作。
食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など。

脊髄損傷の後遺症の症状とは?

脊髄の損傷にともない、運動麻痺、知覚障害、排尿・排便障害、自立神経機能障害(体温調節の異常、発汗の異常、起立性低血圧)、性機能障害などの後遺症状が現れます。
このような脊髄損傷による障害は、損傷した箇所によって、そのあらわれ方が異なります。
脊髄損傷の障害は損傷個所より下の神経が関わる範囲に障害があらわれるため、損傷した箇所が頭部に近いほど、その障害の範囲が大きくなります。
残念なことに、傷ついてしまった脊髄を元のとおりに完全に戻して、その障害を無くすことは、現在の医学では難しいのが現状です。
そのため、医学の発達した現代においても多くの人々がその後遺症に苦しんでいるのです。

運動障害とは?

運動障害は、筋肉あるいはそれに命令を送る大脳や脊髄、末梢神経の障害により、自分の意思で筋肉を動かせなくなった状態のことをいいます。
例えば、腕をあげようとすると、大脳に「腕を上げよう」いう命令が伝わり、大脳は腕の筋肉に「上げる」動きの命令を伝えます。
しかし、この伝達経路の神経に障害があると命令が上手く伝わらず腕を上げることが出来ないのです。
そのため、脊髄損傷により損傷を受けた箇所から下がすべて動かなくなり、両側の下肢の麻痺(対麻痺)の状態となり車椅子での生活を余儀なくされるということが起こるのです。

感覚障害とは?

感覚には「熱い、冷たい、痛い」と感じる温痛覚、「触られた、押された」と感じる触覚、自分の体の位置や姿勢を感じる位置覚、振動を感じる振動覚があります。
熱いお鍋を触ると、手先の神経が「熱い」と感じて大脳に「熱いよ」と伝えます。
脳が「熱い」と認識すると神経をとおして「手を放して」と命令します。
脊髄が障害され、この伝達が上手くいかなくなると「熱い」と感じなくなるのです。
「熱い」と感じなければ、手を放さずそのまま鍋を触ったまま・・・手を火傷するということになるのです。
感覚が障害されると、熱いものに触っても熱いと感じない、針で手を刺しても痛いと感じない、背中を触られても感じないということが起こるのです。
また、寝たきりの「状態になり、褥瘡(床ずれ)ができていても分からずに重症化することもあります。
そして、感覚障害は「ただ感じない」ということだけではなく、感じないことにより命の危険と隣り合わせになることもあるのです。

反射障害とは?

反射障害反射とは、さまざまな刺激によっておこる不随意運動(意識しない運動)のことです。
ハンマーなどで軽く膝を叩くと、膝から下が「ビクッ」と勝手に動いたり、足裏を触ると足底の筋肉が収縮して「キュッ」と縮こまるのが反射です。
脊髄が損傷を受けると、叩かれたり触られたりした刺激による反応が極端に強くなったり、全く無くなったりしてしまうのです。

呼吸機能障害とは?

呼吸を司る筋肉(吸気筋、呼気筋)の麻痺が起こると呼吸機能に障害が生じます。
つまり、息を吸ったり吐いたり、咳をしたり、痰を出したりという当たり前のことができなくなるのです。

呼吸機能に障害が生じた結果、以下のようなことが起こり得ます。

浅く早い呼吸になり、低酸素状態(うまく体に酸素が取り込めない)になる。
咳が弱くなったり、痰が上手く出せなくなり肺炎などの呼吸器の感染症になる。
嚥下機能が低下して、唾液や食べ物が上手く呑み込めず誤嚥性肺炎になる。
呼吸筋の完全麻痺により、人工呼吸器の使用が必要になる。

神経因性膀胱とは?

脊髄の損傷により下部尿路機能をつかさどる神経が障害されて起こる障害のことをいいます。
この障害により、膀胱に尿を溜める(畜尿)→溜まった尿を出す(排尿)という行為がスムーズにできなくなるのです。
大脳は「今はおしっこを溜めているから出しちゃだめ」「溜まったから出してもいいよ」という命令を神経に出します。
しかし、神経が障害されるとこの命令が上手く伝わらず、膀胱に尿が溜められない(尿が出続ける)、溜まっていることが分からない、尿が溜まっていても出ない…ということが起こるのです。

排便障害とは?

便秘、頻便、便失禁のことをいいます。
直腸に便が入ると、感覚神経をとおして「便意」が脳に伝わりますそして、脳が「排便しよう」と判断すると、それが神経をとおして直腸につたわり、腸が動くのです。
腸が動き、腹圧が上昇して「排便」という行為につながります。
神経が障害されると、大脳が命令を出していないのに便が勝手に出る、大脳が「排便していいよ」と命令しているので便が出ないといった障害が起こるのです。

自立神経機能障害とは?

自立神経とは簡単にいうと、生命を維持するために自身が意識することなく働いてくれている神経の機能のことです。
分かりやすくいうと、呼吸をする、体温を調節する、心臓が脈打つ、食べたものを消化する、血圧を調整するなどの行為のことです。
例えば「さあ、今日も心臓を動かそう!」などと意識しなくても毎日心臓は動いていますよね?
自立神経機能障害とは、これらの当たり前のことが当たり前に行われなくなることなのです。

性機能障害とは?

脊髄損傷による性機能障害には勃起障害、射精障害があります。
国内外の論文から2,930名の男性脊髄損傷患者の性機能障害をまとめた報告(1996年)によると、勃起が可能な患者は62%であるが、性交が可能な勃起の硬度と持続時間がある患者は25%でした。
そして、射精が可能な患者はわずかに15%であり、子供を望む男性にとって大きな問題となっています。
勃起には大きく分けて、心因性勃起と反射性勃起の2種類があります。

心因性勃起

視覚/聴覚/嗅覚/触覚/空想などといった興奮が脳から脊髄を通って外性器に伝わり、自律神経の働きで起こる勃起のことです。

反射性勃起

外性器などに対する直接的刺激による勃起のことです。
障害の箇所が仙髄(脊髄の一番下にある)の勃起中枢に及ぶか及ばないかで残存する勃起力に差ができてきます。
多くの脊髄損傷患者では、この反射性勃起は保たれており、導尿を行った際の刺激で勃起が起こることがよくあります。
脊髄損傷患者にとって問題なのは、精神的、身体的に性的興奮があっても反応がなく勃起をしない心因性勃起なのです。

最後に・・・これからの脊髄損傷の治療

また走りたい!これまで、脊髄損傷による主な後遺症についてお伝えしてきました。このような後遺症が明日もしも自分の身に起こったらどうでしょう?
あなたは、平常心を保つことができますか?
「事故に合わないように気を付けているし、私は大丈夫!」「今までも怪我をしたけど骨折しただけだったから大丈夫!」誰でもそうありたいものですよね。
しかし、初めにも述べたように、脊髄損傷はある日突然の事故や怪我によって起こるが多いのです。
「まさか、私が!」ということなのです。
そのため、患者さんにとっては体の傷よりも精神的な傷、動揺は計り知れないものでしょう。
そのため、脊髄損傷の治療には精神面でのケアも重要とされています。
そして、リハビリテーションにおいては、患者さんがその障害を受け入れることができるように精神面のサポートと、自立した日常生活を送り、社会復帰が可能になるような援助を続けることが大切なのです。
できることなら「もう一度歩きたい」「もう一度思い切り走りたい」「もう一度会社に行って働きたい」「もう一度子供に料理を作ってあげたい」「もう一度学校に通いたい」「もう一度友達と遊びたい」と思いながら日々懸命にリハビリテーションを続けている患者さんが多くいらっしゃいます。
そんな患者さんの願いを叶えるため、今この瞬間も多くの医師や研究者の方々が新しい治療法を探し続けています。
少しずつではありますが、医学は進歩して、明るい未来への道が開けてきているのも事実なのです。
そして、まだわずかですが、「もう一度・・・」の夢をかなえることができた人もいます。
そう遠くはない未来・・・脊髄損傷の後遺症に苦しむ患者さんがみんなが、誰にでもあるごくごく普通の日常生活の「もう一度・・・」の夢をかなえることができるようになればいいですね。

参考文献:厚生労働省|急性期脊髄損傷治療の治療を目的とした医薬品等の臨床評価に関するガイドラインについて

  • MEDIC MEDIA 病気がみえる vol7 脳・神経
  • サイオ出版 看護のための病気のなぜ?ガイドブック 監修 山田幸宏
  • サイオ出版 看護のための症状Q&Aガイドブック 監修 岡田忍

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貴宝院 永稔【監修】福永記念診療所 部長 再生医療担当医師 ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

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