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排尿障害

《 目 次 》


脳卒中は脳組織が損傷してしまう病気なので、いろいろな神経症状を起こします。
左右どちらかの半身片麻痺が代表的な神経症状で、これには言語障害を伴う時もあります。
これらの症状は後遺症として、その後の人生に長く不自由な生活を強いますが、実はそれ以外にも高い確率で起こる後遺症として、「神経因性膀胱」という排尿障害があります。
ここでは、一般的な尿失禁の種類と、脳卒中で起こる排尿障害について、ご紹介します。

尿失禁

尿失禁は自分の意志と関係なく尿が漏れてしまうことと定義されています。
女性と高齢者に多く見られ、高齢女性の約30%、高齢男性の約15%に尿失禁が起きますが、加齢による正常な変化ではありません。尿失禁の状態や原因に応じて治療法がきちんとあるので、恥ずかしいなどと我慢せずに泌尿器科を受診しましょう。

症状別タイプセルフ診断

尿失禁の症状やタイプを把握することが適切なケアに繋がります。
機能性尿失禁は生活支援によって改善が可能で、機能性尿失禁以外は治療によって改善が可能です。

※「◎」はその症状の可能性が高く「●」は可能性がある
※「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」のそれぞれに◎と●が複数ある場合は、「混合型尿失禁」と云えます。
※高齢者の尿失禁はいろんな原因で起こり、さまざまな症状となって現れるので、セルフ診断はあくまでも目安ですから、医療機関での受診が欠かせません。

項目 畜尿障害腹圧性尿失禁 畜尿障害切迫性尿失禁 排出障害溢流性尿失禁 機能性尿失禁 尿路感染症
尿意が判らない
咳、くしゃみ、笑うなどの腹圧がかかった時に尿が漏れる
パンツを下ろすまで、あるいはトイレに行くまで我慢できずに尿が漏れる
いつもお腹に力を入れ、いきんで排尿する
尿意が無いのに、知らないうちに尿漏れする
排尿後に残尿感がある
排尿に勢いがない
頻尿(昼間8回以上、夜3回以上)
冷たい水で手を洗うと急に尿意をもよおす、あるいは漏れる

尿失禁の種類

腹圧性尿失禁

重いものを持ち上げた時、走ったりジャンプした時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入って、腹腔内の圧力が急に上昇した時に起こす症状です。漏れる量は少量から中程度です。2千万人を超える、女性の4割が悩んでいると云われています。尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が緩んで起こり、加齢や出産が契機に出現します。原因としては、過重労働や排便時の強いいきみ、喘息などによる骨盤底筋の損傷が考えられます。

切迫性尿失禁

急に尿がしたくなって(尿意切迫感)、トイレまで我慢が出来ずに起こす症状です。漏れる量は中程度から大量です。脳卒中などのせいで、排尿コントロールの指令が上手く出来なくなったのが原因のこともあります。でも多くの場合、膀胱が勝手に収縮して切迫性尿失禁を起こします。男性は前立腺肥大症、女性は膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱も原因とされます。

溢流性(いつりゅうせい)尿失禁

過度に充満した膀胱から尿を出したいのに出せない、でも尿が少しずつ漏れてしまう症状です。通常は少量ですが、持続的に漏れ出すので、総量としては大量の排尿になります。
この症状の前提となる排尿障害を起こす代表的疾患に前立腺肥大症があるので、溢流性尿失禁は男性に多く見られます。他には、直腸癌や子宮癌の手術後などに膀胱周囲の神経機能が低下しまっている場合にも現れます。

機能性尿失禁

排尿機能は正常なのに、身体運動機能の低下や認知症が原因で起こる症状です。例えば、歩行障害のせいでトイレまで間に合わない場合、又はアルツハイマー病などによる認知症のためトイレで排尿出来ないと云ったケースです。この治療には介護や生活環境の見直しも含めて、取り組む必要があります。
※複数の種類の尿失禁が同時に起きる場合は、複合性尿失禁と診断されます。

神経因性膀胱とは

膀胱が尿で充満すると、それを感知して大脳に信号が送られます。尿意を感じた大脳から膀胱や骨盤内の筋肉に指令を出して、我慢させたり、排尿させたりします。この大脳から膀胱に至る神経の一部の障害のせいで起こる排尿障害を神経因性膀胱といいます。

神経因性膀胱の原因

大脳障害

脳卒中、脳髄膜炎、いろんな原因による認知症、パーキンソン病、頭部外傷など。

脳と脊髄の障害

多発性硬化症、脊髄小脳変性症などで、障害部位によって症状の現れ方が異なります。

脊髄障害

脊髄損傷、頸椎症、二分脊椎、脊椎腫瘍、脊椎の血管障害、脊椎炎など。

末梢神経障害

糖尿病性神経症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症、子宮がんや直腸がんなどの骨盤腔内手術など。

神経因性膀胱の症状

・頻尿、尿失禁、排尿困難、時には尿閉(膀胱内に尿があるのに、出すことが出来ない)など。
・原因となる病により排尿障害の症状や程度はいろいろで、無症状のこともあります。
・排尿をコントロールする神経は排便や性機能に関係するので、排便異常や性機能障害(インポテンツ)を伴う場合もあります。
・排尿障害から膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症を起こし、それが原因で腎機能障害を起こすこともあります。

神経因性膀胱の検査と診断

尿失禁や頻尿、排尿困難などは神経因性膀胱以外でも見られるし、神経因性膀胱はいろんな原因によって起こっているので、その原因を調べて、治療の選択を決定するために検査が必要になります。
・症状から排尿をコントロールする神経の障害部位が推定出来ますが、排便の異常や性機能障害についての情報も診断に使われます。
・尿検査では、膀胱炎などの尿路感染症の有無や原因を調べます。
・画像検査では、X線や造影、超音波、MRI、膀胱鏡などを行います。
・膀胱内の圧力と尿流量などの検査で、排尿状態を調べます。
・排尿後の超音波検査や導尿を行って、膀胱内の残尿の有無を確認します。
・大脳や脊髄、末梢神経の病変が原因となることも考えられるので、頭部や脊髄のMRI、髄液検査などが行われることもあります。

神経因性膀胱の治療方法

迅速な治療によって、恒久的な機能障害及び腎臓の損傷を防ぐことが出来ます。カテーテル挿入や導尿手技によって、尿が膀胱内に長期にわたって滞留することが回避出来ます。尿が膀胱に留まる時間が長すぎると、尿路感染症のリスクが高まります。また、膀胱にカテーテルを定期的に挿入する方が、カテーテルを継続的に留置するより尿路感染のリスクが下がるため安全ですが、定期的な導尿には本人の負担や手間がかかるというデメリットがあります。
頻尿である場合には、尿路感染、前立腺肥大、切迫性尿失禁などの治療薬を併用することは多いです。まれに、体から尿を排出する他の経路を作るための手術が必要になります。
どうしても結石が出来てしまう場合には、十分な水分摂取に心掛けて、食事でのカルシウム摂取を制限することがおススメです。

①排尿障害に対しては、まず下腹部を圧迫したり叩いたりして膀胱を刺激し、排尿を試みます。
②「①」で効果が無かった場合は、患者さん自身で1日4~5回「間欠的自己導尿法」を行います。

【間欠的自己導尿法】
1日数回、患者さん自身の手で尿道から膀胱内に細い管(カテーテル)を挿入し、尿を体外に排泄する方法で、膀胱機能の回復や、膀胱炎など持続的導尿の合併症予防に有効と云われ、病院で指導・習得出来ます。

③間欠的自己導尿法が患者さん自身で出来ない場合は、看護師や家族が行うことになりますが回数が多く必要なのであれば、尿道カテーテルという管を体内に留置するのが一般的です。この場合、尿路感染症、尿路結石などの合併症の可能性があります。
④薬物療法では、シロドシン(ユリーフ)、ウラピジル(エブランチル)、イミダフェナジン(ステーブラ)、塩酸プロピベリン(バップフォー)、コハク酸ソリフェナジン(ベシケア)、塩酸オキシブチニン(ポラキス)、塩酸イミプラミン(トフラニール)、臭化ジスチグミン(ウブレチド)などが用いられます。
⑤手術療法としては、膀胱拡大術、尿道周囲コラーゲン注入術、経尿道的手術、スリング手術などが行われます。

神経因性膀胱に効果・効能のある薬

名称 分類 製薬会社 形状
ユリーフ 内服薬 泌尿器科の薬 キッセイ-第一三共 錠剤
ステーブラ 内服薬 泌尿器科の薬 小野薬品 錠剤
バップフォー 内服薬 泌尿器科の薬 大鵬薬品工業 細粒剤、錠剤
ベシケア 内服薬 泌尿器科の薬 アステラス製薬 錠剤
ウブレチド 内服薬 その他の薬 鳥居薬品 錠剤
エブランチル 内服薬 血圧降下薬 三和化学研究所、他 カプセル剤
塩酸プロピベリン 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 共和薬品工業、他 錠剤
オキシブチニン塩酸塩 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 武田テバファーマ、他 錠剤
カルデナリン 内服薬 血圧降下薬 ファイザー 錠剤
デタントール 内服薬 血圧降下薬 エーザイ 錠剤
ノーラガード 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 東和薬品 錠剤
ハイトラシン 内服薬 血圧降下薬 マイランEPD 錠剤
バソメット 内服薬 血圧降下薬 田辺三菱製薬 錠剤
バップフォー 内服薬 泌尿器科の薬 大鵬薬品工業 細粒剤、錠剤
バップベリン 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 アルフレッサファーマ、他 錠剤
プロピベリン塩酸塩 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 高田製薬、他 錠剤
ベンズフォー 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 メディサ新薬、他 錠剤
ペニフォー 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 キョーリンリメディオ、他 錠剤
ポラキス 内服薬 泌尿器科の薬 サノフィ 錠剤
ポラチール 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 寿製薬 錠剤
マイテラーゼ 内服薬 その他の薬 アルフレッサファーマ 錠剤
ミクトノーム 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 あすか製薬、他 錠剤
メシル酸ドキサゾシン 内服薬、ジェネリック医薬品 血圧降下薬 MeijiSeikaファルマ、他 錠剤
ユリロシン 内服薬、ジェネリック医薬品 泌尿器科の薬 ダイト、他 錠剤

神経因性膀胱に関するQ&A

Q:母73歳、3年前に脳内出血を患い介護認定(1度)を受けました。軽度の左半身麻痺で自宅生活、週2回のデイサービスを利用しています。血圧は180/130台で、就寝後から翌午前中にかけて、目覚めている時は30分毎に、頻繁にトイレに行きます。原因は脳内出血のせい? 病状が進む予兆(2度目の出血など)でしょうか?

A:・失禁の回数が増えてきたのは病気(脳内出血)が進む予兆ではありません。
・脳内出血の既往があっても、血圧が180/130台と高いだけでも尿量が多くなるので、血圧コントロールをもう少し強力に行いましょう。
・右利きの方ならば、右側の大脳に脳出血の拡がり方によっては、左側の麻痺に加えて非常に複雑な精神症状が出ることがあります。激しい症状ではないのですが、以前の母親とは異なる行動や反応が多くなることが、右利きの方の右脳障害では見られます。脳出血による症状であれば、精神安定剤の組み合わせで、かなり改善されることがあります。
・現質問の段階では失禁の原因とは考えられませんが、脳出血とは別に認知症が加わったり、正常圧水頭症という脳出血後の後遺症の場合もありますので、主治医に相談してみた方がよいでしょう。

いかがでしたか?
脳卒中による神経因性膀胱は腎盂腎炎などを起こせば、敗血症性ショックに繋がり命にも関わります。
尿である場合、おしっこが出にくい場合などでは主治医に早く相談する様にして下さいね。

脳卒中や脊髄損傷など再生医療に関する情報は「ニューロテック・メディカル」でもご覧頂けます。

貴宝院 永稔【監修】福永記念診療所 部長 再生医療担当医師 ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

投稿者プロフィール

脳卒中・脊椎損傷や再生医療に関する医学的見地から情報発信するブログとなっております。
それらの情報に興味のある方、また現在もなお神経障害に苦しむ患者様やそのご家族の方々に有益となる情報をご提供して参りたいと考えております。

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