くも膜下出血の予後

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くも膜下出血の予後

《 目 次 》


くも膜下出血は、脳卒中の中でも重症度の高い疾患です。
急な頭痛を訴え、急いで救急車を呼んだが病院に着く前に亡くなってしまった、あるいは病院で懸命の治療を受けたものの、命を落としてしまった、そんなケースが少なくありません。
どれくらいの人が生き残ることができるのか、どのような人が生き残ることができるのか、生き残った人がどのような生活を送っているのか。
以上の点を踏まえて、くも膜下出血の予後について解説していきます。

くも膜下出血の生命予後、寿命とは

病院
2017年に発表されたフィンランドの研究では、くも膜下出血の患者さんのうち18%は病院へ到着する前に亡くなってしまったと報告されています。
なんとか病院へ到着しても、くも膜下出血と診断された患者さんの早期死亡率は、1997年の報告では約50%と高い数値が報告されていました。

近年生命予後は改善し、2010年にかけて死亡率は約30%に低下しています。
診断、治療技術の進歩や、病気に関する知識が広まったことで、早期に病院を受診する患者さんが増えたことが要因と考えられています。

生存した患者さんのその後を調べたスイスの研究では、発症後1年までの死亡率は22パーセントだったそうです。
くも膜下出血の再発や、脳梗塞、心筋梗塞などがなくなる原因となっていました。

どの数値をみても、くも膜下出血の生命予後は厳しく、寿命は限られたものになる可能性が高いと言わざるをえません。

くも膜下出血の神経症状、後遺症に関する予後

くも膜下出血になると、様々な後遺症が残る可能性があります。
脳梗塞と同じように、片麻痺やろれつ障害などが代表的な症状です。
重い後遺症が残り寝たきりとなる方は、全体の1-2割程度と考えられています。

くも膜下出血では、記憶障害や認知障害が残りやすいという特徴があります。
くも膜下出血後に生き残った873人を調査したアメリカの研究では、全体の約20%に記憶や認知の障害が残っていたと報告されています。
またうつ病や不安神経症、睡眠障害も一般的であり、一見生活が自立しているように見えても、何らかの症状を抱えている人が多いということになります。

てんかん発作を起こすようになるケースもあります。
発症後1年でてんかんを起こすようになるのは、全体の4-5%程度とされています。

くも膜下出血の予後予測因子

手術
くも膜下出血の予後には、患者さんの年齢が関わることが分かっています。
年齢が高いほど予後が良くないという、逆相関の関係があります。
しかし年齢よりも予後に大きく関わるのが、発症時の重症度です。

くも膜下出血の重症度は、主に意識の状態と運動の状態で評価されます。
発症した時に強い頭痛を訴えてはいるものの、会話が可能で手足が動かせる、という状態は比較的軽症とみなされ、早期に治療に進むことができれば、改善の見込みが高くなります。
少しぼんやりしている、強く呼びかければ眼を開ける、手の動きがやや鈍いなどの症状が出ていると重症度が上がります。
ただし改善の見込みがまだある状態のため、積極的に手術を含めた治療へ進むべき状態です。

一方、痛みによる刺激を与えても眼をあけない、声はだすが意味不明、または声を出さない、手足を動かさないなどの症状は最重症の症状と判定されます。
このような状態では、たとえ手術をしたとしても、命が助からない、または助かったとしても非常に重い後遺症を残し早期に亡くなってしまう、などの可能性が高くなるため、治療を諦めざるをえない場合が多くなります。

その他の予後予測因子としては、CTやMRI検査で分かる頭の中の出血量があります。
出血量が多いほど、予後が悪くなることが分かっています。

くも膜下出血の手術治療には、頭を開いて行うクリッピング術と、血管内治療であるコイル塞栓術があります。
クリッピング術は従来からある方法で、コイル塞栓術は近年進歩し、行われる頻度が高くなっているという背景があります。
しかしこのどちらを選択するかは、動脈瘤の位置や施設の方針によって異なり、現在のところどちらを選択しても予後はほぼ同等であると考えられています。

まとめ

くも膜下出血の予後について、現在までの研究で分かっている数値を中心に、解説しました。
数値を見ても実感を得づらいかもしれませんが、医療が進歩した現在においても、くも膜下出血は重症であるというイメージが伝わればと思います。
予後を改善するためには、第一に発症を予防すること、第二に発症してしまったら早期に治療を受けることが重要です。
病気の怖さを正しく理解し、普段の生活から対策していきましょう。

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貴宝院 永稔【監修】福永記念診療所 部長 再生医療担当医師 ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

脳卒中ラボ管理人

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