
《 目 次 》
知っておきたい脳卒中の初期症状
日常生活の中で、あなたはこんな経験がありませんか?
- 目がボヤケテ見えにくい。
- 言葉がなかなか出てこず、ろれつが回らない。
- 文字が書けない。
- 簡単な計算が出来なくなった。
- 顔面の麻痺や片方の手足がしびれる。
- 頭痛や吐き気、めまい。など。
これらの症状が起きて、ちょっと変だなと感じたら、迷わず救急車を呼ぶか、早急に病院で診断、治療を受けましょう。
初期症状のうちに治療を受けることで最悪の事態を防ぐことが出来るのです。
TIA(一過性脳虚血発作)
脳卒中の中でも、半数以上を占めて、死に至る確率が高いのが「脳梗塞」です。
脳梗塞の前兆をTIA(一過性脳虚血発作)と云って、脳卒中の初期症状は主にこのTIAによる症状です。
その原因は、血管の壁に出来た小さな血のかたまりが一時的に脳内の血管に詰まったり、急激な血圧低下で脳の血流が一時的に急低下することで起こります。
このTIAの症状が20〜30分程度で消えてしまって、「気のせいかな?」と軽い気持ちで放っておくと、後で大変な目に会うかもしれないのです。
TIAを発症すると、10〜20%の人が3ヶ月以内に脳梗塞を発症し、その半数は48時間以内の発症と云われています。
TIAは脳梗塞の後遺症とよく似ているので、一時的に後遺症を体験するようなものなので、症状を感じたら、自分の体に何が起こっているのかをすぐに察知できるように、普段から意識することが大切です。
いつもと違う危険な頭痛
次に挙げる危険な頭痛の場合はすぐに医療機関で受診しましょう
- 今までにない強い頭痛
- 突然の激しい頭痛
- 痛みが急に強くなる
- 回を重ねる度に痛みが徐々に強くなる
- 発熱を伴う頭痛
- 手足のしびれがある
- けいれんを伴う
- 意識がもうろうとなる など。
(1)脳出血
脳の動脈が破れて脳の中に出血し、血液の固まりが出来て、脳を内側から圧迫するために頭痛を起こします。
頭痛は徐々に酷くなって、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
麻痺やしびれなどの神経症状を伴い、手足がしびれてうまく動かせない、ろれつが回らない、物が二重に見えると云った症状が現れた時は、早急に医師の診察を受けましょう。
(2)クモ膜下出血
脳動脈瘤の破裂などで血管が破れ、脳を覆うくも膜と軟膜の隙間に血液が溢れてしまう病気です。
「後頭部に雷が落ちたような」とか「バットで殴られたような」などと表現される、今までに経験したことのないような頭痛に襲われます。
出血の少ない場合は、首のつけ根からうなじあたりにかけて痛みを感じたり、首筋が硬直したりします。
頭痛にはならずに、ひどい肩こりのケースもあります。
出血が激しい場合は、激しい頭痛と嘔吐、けいれんなどを伴って、意識を失うこともあります。
意識が回復せず、そのまま昏睡状態に陥り、なかにはそのまま死に至るケースもあります。
くも膜下出血では、大出血の数日~数週間前に、脳動脈瘤から少量の出血が起こることもあるので、「何か変だ」と感じた時は、脳神経外科での一刻でも早い処置が重要です。
脳卒中で起こる症状
(1)片麻痺
脳卒中で片側の脳が傷害されると、一側の手足が動かしにくく(片麻痺)なります。
状態によって筋肉の緊張が得られない重度の麻痺(弛緩性麻痺)、筋肉の緊張が過度である中等度~軽度の麻痺(痙性麻痺)に分かれます。
(2)高次脳機能障害とは
脳卒中などで脳が損傷され、記憶障害、集中力や考える力の障害、異常行動、言語障害などが生じ、生活への適応が難しくなった場合を「高次脳機能障害」と云います。
行政的な定義では、
- 記憶障害
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 社会的行動障害
学術的、医学的定義では、上記4つに加えて、
- 失語症
- 失行症
- 失認症
- 認知症
の4つが含まれます。
①記憶障害
記憶障害とは、事故や病気の前に経験したことを思い出せなくなったり、新しい経験や情報が覚えられない状態です。
- 物の置き場所を忘れたり、新しい出来事が覚えられない。
- 今日の日付が判らない、自分のいる場所が判らない。
- 自分のしたことを忘れる。
- 人の名前や作業手順が覚えられない。
- 何度も同じことを繰り返して質問する。
- 一日の予定を覚えられない。
- 作業の途中に声をかけられると、何をしていたか忘れる。
②注意障害(半側空間無視を含む)
注意障害は、周囲からの刺激に対して、必要な物に意識を向けたり、重要な物に意識を集中させたり出来にくい状態です。
- 長時間一つのことに集中できない。
- 気が散り易い。
- 言われていることに、興味を示さない。
- 周囲の状況を考えずに、行動を起こそうとする。
- ぼんやりしていて、たまに何かするとミスばかりする。
- 一度に二つ以上のことをしようとすると混乱する。
- 片側にあるものだけを見落とす。
③遂行機能障害
遂行機能障害は、論理的に考える、計画する、問題を解決する、推察する、行動すると云うようなことが出来ない。
また、自分の行った行動を評価、分析することが出来ない状態です。
- 指示してもらわないと何も出来ない。
- 自分で計画を立てられない。
- 物事に優先順位がつけられない。
- 間違いを次に生かせない
- 行き当たりばったりの行動をする。
- 効率よく仕事が出来ない。
④社会的行動障害
社会的行動障害は、行動や感情を状況に合わせて、適切にコントロール出来ない状態です。
- すぐに怒ったり、笑ったりと、感情のコントロールが出来ない。
- 場違いな行動や発言をする。
- 無制限に食べたり、お金を使ったりと、欲求を抑えられない。
- じっとしていられない。
- すぐに親や周辺の人に頼る。
⑤失語症
脳の言語中枢(言語野)が損傷されることにより、獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態です。
発語に関係する末梢神経や筋に異常はなく、知能・意識障害もなくて、ただ言語による表現や文字の理解が出来ない状態を云います。
言語中枢の局在には様々な報告がありますが、最近のレビューでは右利きで左半球が95〜96%、右半球が4〜5%と圧倒的に左半球が主で、また左利きでは左半球が61〜70%、右半球が15〜19%、両半球が15〜20%と報告されています。
ブローカ失語(皮質性運動失語)
ブローカ中枢と呼ばれる処が障害して起こります。
症状は、流暢に言葉が喋れず、復唱や書字、音読が障害され、言語の理解や読解も少し障害されます。
ウェルニッケ失語(皮質性感覚失語)
ウェルニッケ中枢と呼ばれる処が障害して起こります。
症状は、流暢に言葉は喋るのですが、内容に意味不明な点が多く、錯語(言葉を言い誤ること)があります。
復唱や書字、音読、聴覚および視覚による言語の理解も障害されます。
伝導失語
ウェルニッケ中枢とブローカ中枢を連絡する伝導路が障害されています。
症状は、言語の復唱が障害され、自発語も錯語が見られます。
健忘失語
物の名称が思い出せない症状です。
種々のタイプの失語の回復過程で見られます。
全失語
ブローカ中枢とウェルニッケ中枢が合併した状態です。
両中枢が共に障害され、症状は、言語の表出・理解とも出来ず、自発言語も極めて少ないです。
⑥失行症
運動麻痺、知能障害はなく、行うべき動作や行為について、判っているのに動作や
行為が出来ない状態です。
観念運動失行
言葉で命令された動作は行えないが、自然状況下ではその動作が行えます。
例:習慣的動作が意図的に行えない。
さよならと手を振る。
ジャンケンのチョキを出す。
観念失行
動作をするために与えられた物が何であるかは判っているが、繋がりを持った一連の動作をさせると、順序を間違えたり、途中をとばしたりする。
例:たばことマッチを渡して、火をつけて吸う動作をさせても、たばこに火をつけることが判らず、おかしな動作をする。
左半球頭頂葉を中心とする広範囲な病変によります。
分節性失行
- 指先の細かい動作がうまくいかない指節運動失行。
- 舌を出したり、目を閉じたりの動作に支障をきたす顔面失行。
- 一側の手足の観念運動ができない一側性失行。があります。
構成失行
絵を描く、積木をするような視覚的構成行為が障害されたもの。
着衣失行
着衣動作だけが出来ないもの。袖を通す、ネクタイを締めると云うような動作が出来ません。
⑦失認症
感覚障害、意識障害、知能障害がないのに、感覚情報の統合による物体、身体、空間の認知が障害された状態です。
視覚失認
- 物体失認―物は見えるが、何か判らない。
- 色彩失認―色彩は区別できるが、何色かは云えない。
- 純粋失読―文字や文章の音読、読んで理解することだけが判らない。
- 相貌失認―人の顔の識別が出来ず、声などの手掛かりで誰かが判ります。
- 視空間失認―半側空間にあるものを無視します。
聴覚失認
音は聞こえるが、何の音か判らない。
- 純粋語聾―話し言葉だけが判らない。
- 感覚性失音楽症―音楽だけが判らない。
触角失認
触覚はあるが、触った物が何だか判断できない。
- 素材失認―触れた物の材料が判らない。
- 形態失認―触れた物の形が判らない。
- 狭義の触覚失認―素材も形も判るのに名前が判らない。
身体失認
- 自分の身体を認知できない。
- 両側身体失認―体の部位の名前が判らず、指さし出来ない(手指失認―手の指に限った場合)。
- 半側身体失認―運動麻痺はないのに、体半分側の手足が使えない。
- 病態失認―麻痺などがあるのに、それらを認めようとしない。
⑧脳血管性認知症
私たちの脳は血管によって、酸素や栄養分が供給され、その血管の一部が詰まれば→脳梗塞、破れれば→脳出血などになり、その血管が担っていた部分の脳神経細胞が障害されて、担っていた機能が失われて脳血管性認知症になるのです。
認知症のうち半分がアルツハイマー病で、3分の1が脳血管性認知症、レビー小体型認知症などが10%程度です。
誘因
生活習慣病です。
高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、高尿酸血症、喫煙、過度の飲酒、栄養素の不足、バランスの悪い食事、ストレス、日光浴など紫外線、放射線などあらゆるものが誘因になります。
遺伝
一部を除いて、基本的には遺伝しません。
症状
手足の麻痺、構音障害、飲み込み障害、感覚障害など神経症状を伴い易いのが特徴です。
経過
ほとんどのタイプの脳血管性認知症は初めて脳血管が詰まったり、破れたりした時に突然発症します。
そして新たに脳血管が詰まったり、破れたりすると、そのたびに一段と症状が悪くなり、所謂、「階段状」に症状が進行します。
しかし、細い血管が少しずつ詰まるタイプの血管性認知症の場合は、必ずしも「階段状」には進まず、緩やかに進行することもあります。
治療法
残念なことに、一度失われた神経細胞はもとに戻ることはありません。
脳の血管がさらに詰まったり、破れたりして、新しい脳神経細胞を失わないように、血圧をコントロールして、糖尿病や脂質異常症をしっかり治療することが一番大事です。
アルツハイマー病と脳血管性認知症の違い
アルツハイマー病は症状がなだらかな下り坂状に進行することの多い病気ですが、脳血管性認知症の場合は、脳梗塞や脳出血などを繰り返す度に、ガクンガクンと階段状に症状が悪化して行きます。
脳血管性認知症を発症すると、知的機能障害以外に、しびれや麻痺、歩行障害などと云った身体的機能の低下が現れます。
また、「記憶障害はあっても、判断力は保たれている」と云うように、脳損傷の場所によって症状にムラがあることが特徴です。
脳血管性認知症は、病気の原因の対策を立てれば、発症や悪化を防ぐことが出来ます。
生活習慣病である高血圧や糖尿病があると脳梗塞を引き起こし易いので、これらの病気を持っている方は専門医師の指導を受けて、薬を飲むなどしてください。
また、生活習慣病に陥らないよう、日頃から食事や運動など、生活習慣改善に気を配りましょう。

ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。