サンバイオ再生細胞薬SB623の今後の展開について
《 目 次 》
SB623とは、バイオベンチャーのサンバイオが開発を進める薬で、脳神経系の再生医療に用いることを目的に、遺伝子導入した成人の骨髄由来の間葉系幹細胞を培養して作られています。
SB623を脳に移植することで、失われた神経機能を回復させる、脳の自然再生能力を誘発することが期待されています。
現時点では、脳梗塞・脳出血や外傷性脳損傷のために運動機能が障害されている方達への使用が、実用化に向けて準備されています。
また、認知症やパーキンソン病などの治療に使用することも、検討されています。
SB623の最新情報
SB623に関する最新の情報としては、2021年1月に米国神経学会の学術誌であるNeurology®オンラインに、STEMTRA試験の中間解析が掲載されたことがあります。
これは脳への外傷によって慢性的に運動障害のある患者さんに、SB623を使用した臨床試験です。
SB623を使用した46人と使用しなかった15人では、治療開始後6か月の時点でSB623を使用した群のほうが、ベースラインよりも有意に症状の改善を認めていました。
ただし2021年1月に予定していた、再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用した外傷性脳損傷に対するSB623の製造販売の国内承認申請は、準備に時間を要することから、申請を遅らせることが同社より発表されています。
実用化の状況
SB623の実用化は、かなり準備は進んでいるものの、まだ実現していません。
サンバイオのSB623開発は失敗したのか?
サンバイオは、2019年1月末に慢性期脳梗塞の患者に対して行っていたSB623の第二段階の臨床試験に効果が認められなかったことを発表しています。
臨床試験では、患者を2群にわけ、片方にはSB623、もう一方には偽薬(薬としての作用はないもの)を投与し、2群で効果に差が認められるか調べています。
ただ効果がなかったのは、臨床試験で採用した投与方法で効果がなかったということであり、別の投与方法や投与量で治療すれば効果がみられる可能性があります。
「失敗」ではなく「効果のでない投与方法がわかった」と考える方が適切かもしれません。
事実、サンバイオは2020年9月に脳梗塞のサイズが小さいものを対象に、新たに臨床試験を行うことを発表しています。
国内臨床試験(治験)の状況
SB623に対する臨床試験は、主に米国と日本において行われています。
日本では外傷性脳損傷、米国では外傷性脳損傷と慢性期脳梗塞が対象です。
なお、脳出血は現在のところまだ臨床試験の対象にはなっていませんが、今後対象に加えられる予定です。
投与方法
SB623は、定位脳手術という方法で脳内に直接投与します。
具体的には、まず脳内の治療を必要とする場所を特定します。
そして頭蓋骨に小さい穴を開け、細い針を使って治療を必要とする場所にアプローチします。
投与する際は、周囲の脳を傷つけることがないよう、慎重に確認しながら行います。
手術を受ける人への負担は軽く、比較的安全に行うことができる方法です。
SB623に対する臨床試験(治験)の対象疾患
SB 623については、現在2つの疾患を対象に臨床試験が行われています。
ひとつが慢性外傷性脳損傷、もうひとつは慢性期脳梗塞です。
いずれも脳へのダメージの結果、運動機能が障害されて長く経過している方たちです。
臨床試験(治験)の経過
通常臨床試験は3つの段階に分けて行われます。
第三段階がクリアできると、実際に治療薬として使用することが可能になります。
SB623を利用した、慢性期脳梗塞に対する臨床試験は、米国において第一段階〜第二段階の一部が2011年から行われ、2014年に有効性と安全性が確認されています。
さらに進んだ第二段階の離床試験は2016年から開始されていましたが、2019年に効果が芳しくなかったため中断されました。
現在、対象を絞って再開することが検討されています。
SB623を利用した外傷性脳損傷に対する臨床試験は、SB623の脳梗塞に対する第一段階の臨床試験の結果をもとに第一段階をスキップさせ、第二段階から開始されています。
第二段階の臨床試験は2015年に米国、2016年に日本で開始され、現在は対象患者の組み入れは終了しています。
この中間解析が、2021年1月に米国神経学会の学術誌であるNeurology®オンラインに発表されていますが、有効性及び安全性が確認されています。
承認状況
2021年1月に予定していた外傷性脳損傷に対するSB623の製造販売の国内承認申請は、準備に時間を要しており、申請を遅らせることが同社より発表されています。
なお2019年4月、SB623は外傷性脳損傷に対する先駆け審査の対象として、厚生労働省から指定を受けています。
これは臨床試験の早期の段階であっても、著明な有効性が認められる再生医療等製品の製造販売を優先審査するという制度に基づいています。
ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。
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