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便秘を自覚する日本人の割合は年齢とともに増加し、70歳代では男性で10〜15人に1人、女性では8〜10人に1人は便秘と言われています。
非常にありふれた病気である便秘ですが、脳梗塞が便秘の原因になることは知っていますか?
逆に便秘は脳卒中を引き起こす危険性があることを知っていますか?
ここでは、便秘と脳梗塞、その対処法について解説していきます。
脳梗塞になると、なぜ便秘になりやすい?
便秘とは、排便の回数や量が少なくなり、便を排出するのが困難と感じたり、お腹の張りを感じたりする状態です。
腸閉塞や大腸がんなど消化管の病気やストレス、薬の副作用が原因となることもありますが、年齢とともに増加する便秘には、体力の低下と食事内容が原因となっていることが多いのです。
脳梗塞になり後遺症が残った場合、一日の活動量が減少します。
活動量が減少すると、消化管の蠕動(ぜんどう)運動が少なくなるため、便が滞り、固くなりやすくなります。
加えて、腹筋の力や骨盤底筋群の力が弱くなるため、自力で便を排出するのが難しくなってしまうのです。
加齢による体力の低下に、脳梗塞や認知症、パーキンソン病など基礎疾患の増加が加わることが、便秘の方が増える原因となります。
また、活動量が減ることで食欲が低下し、食事量が低下します。
食物繊維を含むものを食べる機会が減ることも、便秘の原因となります。
トイレが近くなるのを嫌い、水分を摂る量が足りない方も少なくありません。
便秘と脳卒中の危険な関係
便秘になり排便が困難になると、便を出そうとして強くいきみます。
いきみのことを怒責といいますが、日常的な事であり、特別危険と感じることはありませんよね。
しかし高齢の方や動脈硬化が進んでいる方などでは、排便時の怒責が生命に危険を及ぼすことすらあるのです。
排便時の怒責は、急激な血圧変動をもたらします。
お腹に強く力を入れていきむと、お腹の中の圧が上がるため、お腹にある太い静脈が圧迫され心臓に戻る血液が減少します。
心臓に戻る血液が減少すると、心臓から送り出される血液も減少するため血圧が低下します。
これを体が感知して、血流を維持するために体中の血管を収縮させて血圧を上昇させるのです。
このメカニズムにより、排便中は安静時に比較して最大67mmHg血圧が高くなり、排便直後は最大48mmHg血圧が低下するというデータがあります。
これだけの血圧の乱高下に血管が耐えることができないと、血圧が急に上昇した時は脳出血の危険が高まり、血圧が低下した時は脳梗塞のリスクが高くなるということになります。
血圧の乱高下は、心筋梗塞や大動脈解離などの原因となり、突然死にも至る怖い状態です。
たかが便秘と思って、あなどってはいけません。
薬以外で便秘に対処する方法
便秘に対処する第一歩は、自らの生活習慣を振り返ることから始めましょう。
便秘への対処は、朝に胃腸が動くように働きかけることが重要です。
一般的に、朝起きた時は腸管がよく動いていて、便が出やすい状況になっています。
そこに水分や食べ物が入ることで刺激となり、便意を催すことになるのです。
仕事や学校に行く準備で忙しい朝ですが、しっかりと朝食をとりトイレの時間を確保することが重要です。
腸の運動を活性化し、排便の力を維持するためには適度な運動が欠かせません。
毎日継続してお腹周りの運動(腰ひねり運動などと呼ばれます)を行うことで、腸が動くための刺激となり、腹筋などの排便に関わる筋力を維持することができます。
また、軽い有酸素運動やお腹のマッサージも便秘解消に効果的です。
食事では、まずは十分な水分を摂取するようにしましょう。
体重が60kg程度の方では一日に2L程度の水分摂取が必要です。
便秘でお悩みの方は、少し多めに水分を摂るようにすると良いでしょう。
食物繊維は腸管で吸収されずに残るため、水分を含んで便の一部となります。
十分に食物繊維が含まれると便が柔らかくなり、スムーズに排便をすることができます。
野菜や豆などに多く含まれる不溶性食物繊維、果物や海藻に多く含まれる水溶性食物繊維をバランス良く摂ることが大切です。
薬を飲んで便秘に対処する
生活習慣の見直しや食事、運動などの対処をした上でも効果が不十分な場合には、便秘薬の使用を検討することになります。
便秘薬には、非刺激性下剤(機械的下剤)と、刺激性下剤があります。
非刺激性下剤は浸透圧や薬剤の膨張、界面活性作用などを利用して腸管内に水分を移動させることで腸管を刺激し、排便を促す薬剤です。
効き方がマイルドで、クセになりにくいという特徴から、広く使用されています。
刺激性薬剤は化学的に腸を刺激することで腸の動きを促す薬剤です。
速やかに効果が出やすいため、こちらも広く好まれている薬剤です。
ただし代表的な非刺激性下剤である酸化マグネシウムは、腎臓や心臓の障害を持つ方は慎重に使用する必要があり、抗生物質や骨粗鬆症治療薬の効果を減弱させる効果があります。
また刺激性薬剤のセンノシドやセンナは、長期に服用すると効果が出づらくなり、中止すると便が出なくなってしまう可能性があります。
薬に頼るのではなく、薬以外の方法を中心に対策をして、補助的に薬を使用するという考え方が重要だということがわかります。
まとめ
脳梗塞と便秘の関係性、便秘に対する一般的な対処法について解説しました。
脳梗塞による後遺症の程度によっては、一般的な運動・食事療法を実施するのが難しい場合もあります。
自分に最適な便秘対処法を見つけるため、主治医とよく相談するようにしましょう。
「便秘がもたらす疾患」White 5(1), 2017
ニューロテックメディカル代表
《 Dr.貴宝院 永稔 》
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。
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